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まだ社長は到着してないみたいで、通話は開始されていない。
アキラさんがしみじみと、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった俺の顔を見てくるから、そんなに凝視しないでと言いたかった。
そしてテーブルに肘を付いて、出されたお茶を飲みながら世間話をするように問い掛けてきた。
「ハル、セナのどこが好き?」
「え……っ?」
「もうハルは、セナの全部を知ってるだろ。セナの事好き?」
……何でそんな事を聞くんだろう。
唐突な問いは核心を突いていて、流れっぱなしだった涙が引っ込んだ。
「好き、です。……そりゃあ最初は、俺男だし姉の春香と間違えてるでしょって突っぱねてましたけど、……ほんとに聖南さんしつこくて。それがだんだん嬉しくなってきて、聖南さんの目にうつるのが俺だけだったらいいなって思うようになったんです。 強くてかっこいい聖南さんも、弱くて甘えてくる聖南さんも、俺は好きです。もう……離れたくないです」
「そっか。……それなら、何があってもセナから離れないでやって。ハルはセナにとって生きがいになってるから。多分ハルが居なくなったら、セナは死んでしまう。ちょっとのすれ違いでゲッソリ痩せる奴だからな」
「はは……そうでしたね、食べないし寝ないですもんね」
あれは……年明けからすぐの頃だったかな。
モデルさんとの一件で聖南は一人で抱え込んで、文字通り自爆寸前だったところを、アキラさんとケイタさんの計らいで事無きを得たっけ。
「そうなんだよ。どんだけ言ってもメシ食わねぇでコーヒーばっか飲んでさ。セナの体調管理もハルの役目になるな」
「……ふふっ。アキラさんも、聖南さんの事大好きなんですね」
心配のあまり、こうして俺と一緒にここに居てくれる事もだけど、小さい頃の聖南の事をこんなにもよく覚えてるところを見ると、アキラさんの中でも今日の件含め聖南の今後は心配の種だったに違いない。
友人として、仲間として、聖南を思う気持ちが痛いほど伝わってきた。
男である俺との付き合いを一切偏見視しないで応援してくれてるのも、聖南が俺の事を大事にしてくれてるからだ。
アキラさんとケイタさんには一番に俺との事を話したみたいだけど、それも納得だった。
「大好きっつーと語弊あるけどな。セナの事は昔から家族同然だと思ってる。俺もケイタも、セナが背中押してくれなかったら役者やってないしな」
「……そうなんですか? ……聖南さんがお二人を役者に薦めたんですか?」
「そう。俺もケイタも同時期に舞台の仕事きて、CROWNとの両立は絶対無理だって断ってたんだ。けどセナが、CROWNの仕事を減らしてでもやれ、お前らはそっちのが向いてる、って元も子もない事言いやがって」
「そうなんだ……。お二人とも、初めから役者志望なのかと思ってました」
アキラさんもケイタさんも年に一度はドラマに出てるみたいで、同時期に舞台の仕事をこなしたりする事もある。
去年二人が別々のドラマに出てたのをこっそり俺は観てたけど、子役時代からいくつも芝居を経験しているからか二人ともアイドルとは思えないほど違和感が無かった。
「俺らのどこを見てそう思ったのか分かんねぇけど、セナは洞察力に長けてる。先見の明もあるし、ダンスも人一倍覚えんの早いし、歌も敵わねぇし、いつの間にか曲まで作れるようになってるし。才能の塊だな、セナは。尊敬してるよ、マジで」
「……聖南さんも、アキラさんとケイタさんの事大好きで尊敬してるから、俺の事話したんでしょうね。信頼してるんだ……。そうやってアキラさん達が思ってくれてるの、聖南さんにちゃんと伝わってるんですよ、きっと」
「こんな話照れくさくて本人には絶対言わないけどな。……あ、しまった、そういやケイタに連絡すんの忘れてた。まーたアイツ、俺は除け者かって拗ねるぞ」
めんどくせーと破顔するアキラさんに、俺は三人の絆を見た。
まだまだ話を聞いていたかったけど、笑顔だったアキラさんの顔が急に強張った事で、たちまち俺達の間に緊張が走った。
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