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朝から胃のムカつきが治まらない。
異常な緊張とストレスで、日々水代わりに飲むコーヒーすら喉を通らなかった。
『チクショー……平気じゃねぇって事か』
先延ばしにしても一緒だ、俺には葉璃がついてるから大丈夫、そう思って覚悟を決めたつもりでも、面と向かうとなると聖南の心はすでに崩壊寸前だった。
運転する手も心なしか震える。
情けない。
葉璃にもこの事を打ち明けないままだから、これが終わっても寄り添ってもらえない。
あえて言わなかったわけではなかった。
最初は、聖南自身の事だし、葉璃には会食直後に話して存分に甘えさせてもらおう。
そう決めていたのに、迫り来る嫌事を前に単に聖南に余裕が無くてこの事を匂わせる術も思い付かなかった。
料亭さくらの駐車場に車を停めた聖南は、ハンドルに両手を掛けて項垂れた。
『どんな顔してりゃいいんだよ……』
父親はどんなつもりで聖南と会食をしたいなどと言い出したのだろうか。
仕事関係で会食をするなら社長だけでも良かったのではないか、なぜ自分も…。
「うぉっ…」
突然運転席側のドアを開けられて、聖南は驚いて変な声が出た。
犯人は難しい顔をした社長で、聖南を心配するように見ている。
「……セナ、大丈夫か」
「あぁ、大丈夫。 ……大丈夫じゃねぇ」
「だろうな。 早めに切り上げるよう頃合い見てやるから、セナはとにかく渡辺の方と話をしていればいい」
「分かった」
運転席から降りた聖南は、会食ともあってきちんとビジネススーツでやって来ていた。
仲居に案内されている最中、聖南は不安げに社長の後ろを付いて歩く。
「なぁ、もう来てんのかな」
「恐らくな」
「社長、アイツとトモダチなんだろ? なんであんなのとトモダチなんだよ」
「あれは昔から不思議な男なんだ。 友人の一人ではあるが、私もそれほど親しい覚えはない。 ほとんど連絡も取り合わない」
「………ふーん…」
いよいよ個室の前にやって来て、聖南は一度大きく深呼吸した。
『落ち着け、落ち着け、………葉璃、…力貸して』
瞳を閉じて数秒、葉璃の笑顔やぷぅと膨れた可愛い顔を思い浮かべた。
そんな葉璃はアキラと共にすぐそばに居るのだが、そんな事など知らない聖南はその数秒にここ一番の力を注いでもらうしかなかった。
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