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「泣いてんのはお前だろ、葉璃?」
「へっ!?!?」
ゆっくり体を離して葉璃の顎を取り上向かせると、驚いて瞳を丸くした葉璃が聖南を見た。
涙でほっぺたはびしょびしょ、泣き過ぎて目は腫れ、少し鼻水の垂れた葉璃の一心不乱さに、聖南は心からの笑みを葉璃に向けた。
傍らにあったティッシュの箱から二枚抜き取り、葉璃の鼻に押し当てる。
「ちゅーんしな」
「………しゅーんっ」
垂れかけていた鼻水を拭ってやると、葉璃の鼻先が赤くなってさらにまた可愛くなった。
「な、なん、なんで、なんでっ? あれっ? アキラさんはっ?」
「葉璃、なんでここに居るんだよ」
「お、俺が…ひっ、……聞いてるんですよ!」
「いや、まず俺の質問に答えろ」
聖南に見付かるとマズイと思い出したのか、葉璃はその腕から逃れようとした。
だが聖南が葉璃の腰を強く抱いているので少しも互いの距離は変わらない。
離すもんかと、より力を込めて抱き寄せた。
「言わねーと押し倒すぞ」
「……ちょっ、何を言って…!? ……わ…分かりましたよ…。 あの、…聖南さんが心配だったから…偵察に……」
「偵察ー?」
「は、はい。 ……でも来て良かったです……聖南さん、やっぱり泣いたもん」
「泣いてねぇよ」
見てみろ、と顔を寄せると、葉璃はポッと赤くなって俯いてしまい、目前のその柔らかな髪を撫でてやった。
まだ号泣の名残りで鼻をシュンシュンさせている葉璃が、胸の中でぼそりと呟く。
「心の中で……泣いたでしょ……?」
「…………………………」
きゅっと葉璃が聖南を抱く手に力を込めた。
大切なものを守ろうとするかのように、大事に、強く、そしてそれは自分は聖南から離れないよと教えてくれているかのようだった。
『心の中で、か………』
そうかもしれない。
愛さなかった自覚を父親から二度に渡って突き付けられた息子としての絶望は、言葉では言い表せない。
泣きたくても泣けないのは涙が枯れてしまったからではなく、悲しみよりも、父親への失望の方が大きかったようだ。
本当に、どんな感情をも投げ出してしまいたいくらい、聖南の中で重たい何かが湧き上がってきていた。
もしここに葉璃が居てくれなかったら、衝動的に何をしでかしていたか分からない。
もう、怒っていない。悲しんでもいない。
ただ聖南はやっぱり独りだったのだと改めて侘しく理解した。
親はあって当然のもの。
だが聖南にとってそれは当然ではなく、名前だけの赤の他人だ。
許さない。いや、許すほどの感情移入もできない。
やはり父親との対面などするものではなかった。
こうなる事くらい分かっていたのに。
「…………どっかで………期待してた…」
葉璃の呟きにいよいよ聖南も項垂れて、葉璃の肩口におでこを付けて嘆いた。
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