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見事な日本庭園の脇から駐車場へと抜けて、聖南は後部座席に葉璃を乗せると自分も続いた。
「えっ? ちょっ、……?」
シートを倒して葉璃にのしかかると、聖南は感激のまま柔らかなほっぺたを両手で包み込む。
瞳を閉じて小さく深呼吸し、ゆっくりその目を開くと倒されたシートの上でジッと聖南を見上げている葉璃を見詰めた。
「日向聖南は、倉田葉璃を一生愛すると誓います」
「…なっ、え、? ……聖南さんっ?」
「病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も…いや貧しくはならねぇか。 伴侶として愛し、敬い、慈しむ事を誓います」
「聖南さんっ、何ですか、急に!?」
突然聖南は誓いの言葉を葉璃へと告げた。
葉璃が父親へ啖呵を切っていた間、もうこれを言わずにいられないと拳を握っていたのだが、唐突過ぎて目の前の葉璃はオロオロしている。
「言いたくなったから」
「だ、だからって…」
「葉璃の返事はまだいらない。 俺とずっと一緒に居てほしいけど、俺が葉璃の人生を縛るなんて出来ない。 葉璃が前言ってただろ」
「………………………」
「もし俺とお前が別れるってなったら、葉璃は俺の事大好きだから別れてあげますって。 その後ストーカーなるとか言ってたけどな。 何で好きなのに別れられんの、ってあん時は腹立ったし訳分かんなかったけど、今なら分かる。 愛してるから、自分の気持ちを殺せる。 相手の事の方が大事になんだ」
一方的に好きの気持ちを押し付けるだけが聖南の愛し方だと思っていたけれど、葉璃が聖南を思っての行動にようやく、あの時の葉璃の言葉の意味が分かった。
大好きだからこそ、相手が思うようにさせてやりたい。
縛るだけが恋愛ではない。
聖南の生きる糧である葉璃を失えば、その時自分はどうなってしまうか正直分からないが、葉璃に別の愛する者が出来て聖南から離れたいと願ったら、その時手放す事は出来る。
愛しているから。
困らせたくはないから。
幸せでいてほしいから。
そうなったら聖南は本当に息絶えてしまうかもしれないけれど、葉璃の気持ちが一番だ。
瞳を丸くしたまま無言で見上げてくる葉璃と見詰め合うと、聖南の本気が伝わったらしく見るからに重い溜め息を吐いた。
「はぁ……。 聖南さん、俺の返事待ってくれるなら、三年後にまた言って下さい」
ほっぺたに乗った聖南の両手に葉璃は自身の掌を重ねて、薄っすら微笑んだ。
可愛い…と思いながら、意味深な台詞に頭をフル回転させるが意味が分からない。
「三年後? 何で三年後?」
「俺のターニングポイントが三年後、だから」
「……………………」
「俺はまだ聖南さんを支えてあげられない。 これからも聖南さんを追い掛ける立場の俺が、三年後…今より自信持って聖南さんと並んでられてたら、返事します」
フル回転させた頭の中で、確か社長が三年後にETOILEの基盤が出来ていたら新しく三人加入させると話していたが、その事だろうか。
この世界のデビューから三年は、残れるか消えるかの境目ともあって社長はその期間を決めたと思われたが、葉璃がそれを前向きに捉えていると知って聖南は嬉しかった。
知らない他人が三人も入ってくるなんて嫌だな、と以前の葉璃なら愚痴をもらしていたに違いない。
眩しく高らかに成長し続ける葉璃と歩んでいけるなら、聖南はいくらだって待つ。
「いっちょまえな事を」
「ふふっ…。 でも聖南さんの言葉は俺貰いましたからね。 キャンセル不可ですよ」
「キャンセルなんてするかよ。 今までも葉璃にどんだけ待たされたと思ってんの? 三年なんてあっという間だ。 しかも今はちゃんと俺の横にいるし」
「あ、前の事は言わないで下さいよ! 俺なりに悩んでたんですからっ」
「それは俺も一緒。 ……葉璃、俺の言葉貰ったんなら誓いのキスは」
初めての恋に二人して戸惑い、すれ違い続けた懐かしい日々を思い出して笑い合うと、聖南はゆっくり、照れた葉璃の唇を奪った。
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