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聖南の温かい唇が、俺の唇に何度もキスを落としてくる。
触れるだけの優しく啄むそれが、行為を予感させるものではないから余計に照れてしまった。
聖南の鼻先が頬に当たるいつもの感触も異常に気恥ずかしくて、さっきの突然の誓いの言葉の後だから聖南の顔をまともに見られない。
「………ごちそうさん。 今何時だっけ? わ、ヤバ」
うっとりするくらいカッコいい笑顔で離れて行った聖南が、腕時計を見て慌てて俺を抱き起こした。
「え、何時ですか?」
「8時半。 ちょい遅刻だわ」
「えぇ!? すみません!」
「いや葉璃のせいじゃねぇよ。 スタッフにはアキラがうまいこと言ってくれてるだろうし。 このラジオもう七年やってっから大丈夫」
あと三十分で本番なんだからもう少し急ぐ素振りを見せたらいいのに、ここからラジオのスタジオまで十分もかからないからって言いながら俺を抱き締めている。
抱き起こされて、そのまま抱かれた形だ。
「聖南さん、マジで急ぎましょ! 本番に遅刻はダメですよ!」
「……今日泊まれんの?」
「もちろん泊まります! 今日だけは親がダメって言っても聖南さん優先します、だから早く!」
「よっしゃ、じゃあ行こ」
聖南はいそいそと後部座席を降りて運転席へ移動し、車を走らせた。
俺は後部座席に乗ったまま、シートを起こすレバーが見付からなくて探していると、本当にあっという間に到着してしまった。
ゆったりと歩いている聖南の背中を押してスタジオへ入ると、スタッフの人が物凄く慌てた様子で駆け寄ってきた。
台本らしきものをすでに持ってるから、本番まで本当にギリギリっぽい。
「セナさん! 待ってたよ〜! もう二人にはスタンバイしてもらってるから、はい、これ台本。 セナさんならぶっつけでも大丈夫だろうから任せたよ!」
聖南が「七年やってるから大丈夫」って言ってたのは、スタッフと馴れ合ってるからって意味じゃなく、本番の流れを狂わせない自信からくる「大丈夫」だったんだ。
信頼を勝ち得ているスタッフさんの聖南への言葉に、やっぱり聖南を追い掛けていてもたどり着ける気がしないなと思った。
「悪いな、遅くなって。 本番は任せとけ。 あ、この子事務所の後輩だから、俺らの控え室で待たしといてやってくれる?」
「分かりました!」
台本を受け取った聖南が俺に視線を寄越して「行ってくる」と瞳で話し掛けてくる。
スタッフの人に控え室へと誘導されている俺は、まだこちらを見ていた聖南を振り返って微笑み、「がんばって」と返しておいた。
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