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控え室に通された俺は、前回同様お茶だけ買って深く沈み込むソファに落ち着くと、スマホのラジオアプリを起動した。
もうすぐCROWNのラジオが始まる。
すぐそこでやってるから実際の現場を見てみたい気もするけど、さすがにそんな事は言えないから妄想だけしておく。
家で聞いてるときもいつもそうで、聖南はもちろん、アキラさんとケイタさんも俺を囲んで話しているみたいに感じるから、このラジオが俺はとても好きだ。
お茶を一口飲んでスマホを確認すると、五分後に迫る本番に三人があーだこーだ言い合う姿が目に浮かんで微笑ましくなった。
三人の絆は想像以上に強くて、聖南は決して独りじゃない、家族のように思ってくれている人が間違いなくいるんだよって改めて教えてあげたい。
照れくさいってアキラさんも言ってたし、お互い恥ずかしくて伝え合わないだけで、教えてあげなくても分かっていそうだけどね。
アキラさんがさっき語ってくれた聖南の過去と、俺と聖南を心から応援してくれてるって事、俺にとってはすごく貴重な話をたくさん聞かせてくれてたっていうのに、その後だよ。
社長が繋いでくれたイヤホンからの会話内容が、隣の部屋の様子をハッキリと伝えてくれて。
なかなかお父さんと会話する気配のない聖南が、何事もなく傷付かないままこの会食を終えられたらと安心していた矢先だった。
料理は頼まなくていいですってアキラさんには断っておいたのに、テーブルに並んだ二人分の食事に手を付けようと二人で箸を持ったところに、お父さんが聖南に話し掛けた。
そしていくつかやり取りを交わし、聖南の切ない怒りの言葉で俺は涙が止まらなくなった。
本当は愛してほしかったんだ…ずっと寂しい気持ちを抱えて、それを必死で隠してきたんだ…。
そう思うと、聖南が可哀想で可哀想で……。
今になって「本当はいつでもお前を思っていた」なんて、虫が良すぎる。
お母さんが居ない特殊な環境だったんなら、お父さんがもっともっと聖南を構ってあげて、愛してあげなきゃいけなかったのに。
仕事が忙しくても、家に帰って寝る事くらいは出来たはずだ。
小さな聖南をひとりぼっちで生活させておいて、大人になったから和解しましょう、は到底無理な話だと俺でさえも思う。
悔いていると言うくらいなら、嘘を吐いてでも聖南を愛せなかった「理由」を告げて聖南に頭を下げるのが筋じゃないのかって。
俺に抱き着いて離れなかった聖南は、まるで子どもみたいに「好き、好き」と言い続けていて、それは俺に無条件の愛を要求してるみたいだった。
平気なフリをするのがどれだけツラかったか。
どんな顔をして毎日孤独と戦ってたのか。
家族を知らない聖南がどれほど愛に飢えていたのか。
心から反省し、許しを乞わなければいけないはずなのに、聖南を思っていたなんて嘘は吐いちゃダメだ。
単に聖南の心をグシャッと握り潰しただけのお父さんの無神経さに、俺は怒りが治まらなかった。
あんなに怒り、悲しんだ事は無い。
個室へ乗り込むと、突然現れた俺に社長と聖南のお父さんは驚いて見てきたけど、そんなもの関係なくまくし立ててやった。
怒りの中で見たお父さんはダンディー過ぎて…つまり、聖南を渋くさせた感じで、歳を重ねたら聖南はこんな感じなのかなって、ほんの少しだけドキドキした…なんて事は聖南には絶対内緒だ。
あまりの怒りで興奮し過ぎて頭から湯気でも出てるんじゃないかと思った。
大好きな人を悲しませるなんて、それがたとえどんなに偉い人でも、血の繋がった親子だとしても、知った事じゃない。
聖南を傷付け悲しませる人は誰であろうと俺は許さないし、大ッキライ。
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