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控え室に通された俺は、前回同様お茶を握りしめて深く沈み込むソファに落ち着いた。
スマホのラジオアプリを起動させて、イヤホンを装着する。
もうすぐ、CROWNのラジオが始まるんだ。
すぐそこでやってるんだし、俺が一言「見学したい」と言えば実際の現場で生の三人のやり取りを見れちゃうんだろうけど……、さすがにそんな事は言えないから妄想だけしておく。
というより、聖南はもちろん、アキラさんとケイタさんもまるで俺を囲んで話しているみたいに自然体だから、このラジオが俺はとても好きだ。
リスナーさんも、みんなそうだと思う。
テレビとはまた一味違う、より素に近い三人の声を聞けると思うと楽しみで楽しみで、聖南には言わないけど隔週放送なのが勿体無いよ。
「ふふっ……待ちきれないや」
お茶を一口飲んでスマホを確認すると、五分後に迫る本番に三人があーだこーだ言い合う姿が目に浮かんで微笑ましくなった。
「でも聖南さん、……普段通りにお仕事できるかな……」
俺だったらとても抱えきれなかっただろう、小さい頃の聖南の寂しさ。
ついさっきの出来事なのに、脳ミソが勝手にもう忘れてしまおうとしちゃうくらいツラい時間だった。
でも改めて、嬉しい事もあった。
CROWN三人の絆は想像以上に強くて。聖南は決して独りじゃない。家族のように思ってくれている人が間違いなく居るんだ。
聖南の過去を知るアキラさんもケイタさんも、俺たちの付き合いを心から応援してくれてるって事も分かって嬉しかった。
すごく貴重な話もたくさん聞かせてくれてたっていうのに、……その後だよ。
社長が繋いでくれた会話内容は、とてもじゃないけど平静で居られなかった。
なかなかお父さんと会話する気配のない聖南が、何事もなく、傷付く事もなくこの会食を終えられそうだと安心していた、その矢先。
料理は頼まなくていいですってアキラさんには断っておいたのに、テーブルに並んだ二人分の食事に手を付けようと二人で箸を持ったところに、お父さんがいきなり聖南に話し掛けた。
そしていくつかやり取りを交わした後の聖南の切ない怒りの言葉で、俺は涙が止まらなくなった。
だって……。
本当は愛してほしかったんだ。ずっと「寂しい」という気持ちを抱えて、それを必死で隠してきたんだ。
そう思うと、聖南が可哀想で可哀想で……。
今になって「本当はいつでもお前を思っていた」なんて、虫が良すぎる。
お母さんが居ない特殊な環境だったんなら、お父さんがもっともっと聖南を構ってあげて、愛してあげなきゃいけなかったのに。
いくら仕事が忙しくても、家に帰って寝る事くらいは出来たはずだ。
小さな聖南をひとりぼっちで生活させておいて、大人になったから和解しましょう、は到底無理な話だと俺でさえも思う。
悔いていると言うくらいなら、嘘を吐いてでも聖南を愛せなかった「理由」を告げて聖南に頭を下げるのが筋じゃないのかなって。
俺に抱き着いて離れなかった聖南は、まるで子どもみたいに「好き、好き」と言い続けていて、それは俺に無条件の愛を要求してるみたいだった。
平気なフリをするのがどれだけツラかったか。
どんな顔をして毎日孤独と戦ってたのか。
家族を知らない聖南がどれほど愛に飢えていたのか。
心から反省し、許しを乞わなければいけないはずなのに、聖南を思っていたなんて見え透いた嘘は吐いちゃダメだ。
あの時間は、単に聖南の心をグシャッと握り潰しただけ。
お父さんの無神経さに、俺は怒りが治まらなかった。
あんなに腹が立って、悲しみに震えた事は無い。
勢いのまま個室へ乗り込むと、突然現れた俺に社長と聖南のお父さんは驚いて見てきたけど、そんなもの関係なくまくし立ててしまった。
怒りの中で見たお父さんは、悔しいけどとってもダンディーで……つまり、聖南を渋くさせた感じだった。歳を重ねたら聖南はこんな感じなのかなって、ほんの少しだけ未来の姿を思い描いた。
……なんて事は、聖南には絶対内緒だけど。
俺はあの時、あまりの怒りで興奮し過ぎて頭から湯気でも出てるんじゃないかと思った。
大好きな人を悲しませるなんて、それがたとえどんなに偉い人でも、血の繋がった親子だとしても、知った事じゃない。
聖南を傷付け続けて、悲しませて、心の中で泣かせてしまうような人は、誰であろうと俺は許さない。
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