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アキラさんとケイタさんも俺達のこの光景を見ても何も言ってこないから、恐らくさっきの出来事で甘えたに拍車が掛かっている事を承知してるらしい。
途中キスされるかと思うくらい、数分たっぷりとスリスリ撫で撫でしてきた聖南は、満足したのかゆっくり離れていった。
「充電終わった? セナ、あと三十分頑張れ」
「ハル君、悪いけどもう少し待っててね」
聖南が立ち上がった事で、アキラさんとケイタさんもようやく声を掛けてきた。
二人は俺より聖南との付き合いが長いし、現に聖南が孤独と戦っている当時を知ってるから、今日の事はアキラさんもケイタさんもすごく聖南を心配してるんだろう。
聖南を見る二人の瞳がいつも以上にあったかい気がした。
「はい、俺なら大丈夫です。 聖南さん、頑張って下さいね」
「おー。 ……終わったらメシ行こ。 みんなで」
「え、俺らも?」
「お邪魔じゃない?」
「…居てほしい。 お前らにも」
いつになく弱々しい聖南の誘いに二人が断るはずもなく、「分かった」と笑顔を向けて、三人は打ち合わせへと行ってしまった。
俺だけじゃなく、当時を知る二人にも一緒に居てほしいと言うなんて、よっぽど聖南の心が壊れかけていた証拠だ。
実際に俺と一緒に居たアキラさんは、聖南とお父さんの会話を直に聞いてるだけに色々と複雑なところがあると思う。
俺は泣きじゃくっててよく見えなかったけど、アキラさんも少しだけ涙を流していたような記憶がある。
取り乱して泣いてた俺を抱き締めてくれながら、アキラさんも鼻を啜ってたから…たぶん、そうなんじゃないかな。
三十分とかからずに戻ってきた三人は、特に会話もなく身支度を整えてスタジオを後にした。
聖南先頭で高級車三台が連なって数十分走り、これまた先程同様、老舗っぽい趣のある料亭へとやって来た。
「……ここも雰囲気ありますね」
「滅多に来ねぇけど、社長と一対一で話する時はここ使うんだ。 予約はしてあるから好きなだけ食えよ」
「……………はい」
程なくアキラさんとケイタさんも到着し、畳張りの個室へと四人で入っていく。
横並びで俺と聖南、対面にアキラさんとケイタさんが腰掛け、すでに四人分の懐石料理がそれぞれの前に広がっている。
担当の仲居さんがお茶を淹れてくれて、「御用があればベルでお知らせください」と畏まって出て行った。
今日は高級料亭続きで俺は緊張しっぱなしだ。
「あ~腹減った。 頂きまーす」
「俺も。 いただきます」
ケイタさんが真っ先に料理に箸を付けた事で、アキラさんもそれに続いて食べ始めたから、個室内の少しピリッとした空気が若干和らいだ。
聖南に瞳で促され、俺も小さくいただきますして箸を持つ。
さっきもそうだけど、こんなに立派な懐石料理を食べた事がないから、これは何ものなんだ?と首を傾げながら白くて真ん丸な何かを口に運ぶ。
あ、これ、魚のすり身だ。
半透明な和風出汁の餡に絡んでいた白いものの正体は、上品ですごく口当たりがよくて美味しい。
普段食べ付けない料理を前に、度々箸でそれらを摘んでジッと見詰めてた様を、三人が笑いをこらえながら見ていたなんて俺は全然気が付かなかった。
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