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「…たまんないだろ、セナ」
「あぁ。 かわいー。 お前らもそう思ってんなら、俺はもっとだな」
「ハル君って幼く見えるよね。 俺と三つしか変わんないのに」
「…………え、もしかして俺の噂してます?」
刺し身に付けたわさびが思いの外辛くて、慌てて箸を置いてお茶を飲んだ。
自分のさじ加減の下手さとわさびのツーンとした風味に涙が出てきて、おしぼりで拭おうとしたらそれがめちゃくちゃ冷たくて「ヒッ」と声を上げてしまう。
そんな一人でジタバタしていた姿を、三人揃ってジッと見てたなんて恥ずかしいじゃんか…。
「セナ、………良かったな。 俺もあの場に居たから分かるけど、セナを好きになってくれたのがハルでほんとに良かった」
「…………そうだ、セナ。 言いたい事言えたのか? その……親父さんに」
俺のジタバタが突破口になったのか、アキラさんがそう口火を切った事でケイタさんもその話に乗っかってきた。
聞きたくても聞けない雰囲気だったから、二人もヤキモキしてたに違いない。
「……あー…。 なんつーか。 期待してたのとは違ったけど、予想してた通りの結末よ。 俺が言いたかった事は葉璃が全部言ってくれた」
聖南は話をしながら俺の刺し身皿からわさびを全部奪うと、自身の刺し身にベッタリ塗ってそれを口に含む。
あんなに塗ったら辛いはずなのに、聖南は平気そうだ。
「………ハルが? どういう事だ? あの後なんかあったの?」
あの時、いつの間にか聖南と入れ替わってたアキラさんが、薄いピンク色の何かを食べた。
あれは何だろう、と俺も自分のを食べてみたら、今度は海老のすり身だった。
「俺がトイレ行ってる間に葉璃が社長達のとこに乗り込んでって、父親に怒鳴ってた」
「聖南さんっ、俺怒鳴ってなんか…!」
「えぇ!? ハル君が親父さんに!?」
「………ハルが? このハルが?」
「あぁ。 俺あん時初めて泣きそーになったよ。 …めちゃめちゃ嬉しかった。 だから今そんな凹んでねぇの」
……聖南さん、嬉しかったんだ…。
車の中で急に誓いの言葉を言ってきたから変だとは思ってたけど、俺のあの激怒が聖南にそうさせたんだ。
俺にだって全部は分かってあげられない聖南の気持ちを、少しでもお父さんにぶつけなきゃ気が済まなかったからあんな事しちゃったんだけど…。
「人見知りのハルがなぁ…。 あんだけ泣いてたのによく怒鳴れたな?」
「い、いえ、だから俺怒鳴ってなんか……」
怒鳴ったつもりはなくても、ブチ切れてた事は確かだから、そう思われても仕方ないのかもしれない。
美味しいはずの海老のすり身をいつまでも咀嚼していると、それに気付いた聖南がお茶を渡してくれた。
「あんなに怒ったの人生で初めてなんじゃねぇの? それが俺のためってのがたまんねぇよな。 ……あとな、…アキラとケイタにも感謝してんだよ」
「なんだよ急に。 水臭いな」
「ほんとだよ、照れるじゃん」
聖南が箸を置いて二人を交互に見た。
「俺がツラかった時、一番そばに居てくれたのはお前らだった。 俺の状況知って、CROWNとして活動する前からそばに居てくれて、俺がヤバイ道に走ろうとするのを必死で止めてくれた。 今の俺があるのは、お前らのおかげだ」
「………………………」
「………………………」
「アキラもケイタも、俺に感謝してるってよく言ってくれてんじゃん? それは俺も同じだって事。 二人が居なかったら、俺は今ここに居ない。 マジでその辺で野垂れ死んでる」
聖南の感謝の気持ちを大切に受け止めている様子のアキラさんとケイタさんは、ただ黙って聖南を見ている。
普段言えない気持ちをきちんと伝えなきゃと思ってこの場に二人を呼んだ事を知って、関係ない俺が感動して泣きそうになってしまった。
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