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 時間が不規則な役者業もこなしている二人は、「心配かけやがって」と小言を言いながら葉璃の頭をひとしきり撫で回して帰って行った。  たくさん礼を言った。  二人が動いてくれなかったら、聖南は本当にブチ切れて佐々木と乱闘騒ぎを起こしていたかもしれない。  今となって気付ける事だが、葉璃の自宅を出てこの海岸まで来た道中の事を一切思い出せないほど、我を忘れていたらしい。  正気を失っている、冷静ではない、……アキラとケイタにそう言われても、聖南自身はそのどちらも当てはまらないと思っていた。 「聖南さん……ごめんなさい……。俺またみんなに迷惑掛けた……」  助手席にちょこんと座る葉璃が深く俯いて、寒いのか両手を擦り合わせている。  暖房のスイッチを押した聖南は、その冷えた両手を取って葉璃の顔を覗き込んだ。 「迷惑とか思ってねぇよ。みんなもそうだ。俺と葉璃なら起こしそうな騒動だろ」 「そんな……聖南さんは悪くないです。俺が悪いです、全部。……聖南さんは本当に、俺と居ても不幸にならないんですか? 社長さんはああ言ってくれてたけど、でも……」 「もういいだろ、悩むのはやめろ。俺は葉璃から離れない。葉璃の気が変わったとかならちょっと考えてやってもいいけど、そうじゃないなら俺から離れる事なんて許さない」  この期に及んでもまだ不安を吐露する葉璃の葛藤は、相当なものだったのだろう。  聖南の業界での立場や所属タレントとしての働ぶりきをより間近で見て来た葉璃が、そう怖じ気付くのも仕方がないのかもしれないが、聖南と付き合いを始めた時からそれは分かっていた事ではないのか。 「てかさ、今さらだろ? 俺とこういう関係になったらそんな不安芽生えんだろうなとは思ってたけど、時期が遅過ぎ。悩むんならもっと早くに悩めよ」 「思ってましたよ、それは……ずっと。けど俺、聖南さんと一緒に居るのが楽しくて、それが当たり前になっちゃってた。不安なんか忘れてたんです」 「じゃあそのまま忘れてろ」  ── 俺と居る事が当たり前、か……。嬉しい事言ってくれるじゃん。  思わず聖南は葉璃の体を運転席側に寄せると、おでこを合わせて至近距離で大好きな瞳を見詰めた。 「……いいんですか、ほんとに」 「俺、葉璃に誓いの言葉言わなかったっけ?」 「言いました、けど……」 「あれに、どんな状況になっても葉璃を愛しますってのも追加な」 「…………」  しょんぼりとへの字眉になってしまった葉璃の唇に、チュッと軽く口付ける。  勢いで舌を入れてしまいそうになったが、そうなると周囲は暗闇で無人なのをいい事に、カーセックスへともつれ込んでしまいそうだったのでやめておいた。 「……今日は離れたくねぇな……学校あっから送んなきゃなんねぇのがツラい……」 「…………」  明日は月曜日。  高校生である葉璃は、間もなく二十二時を回ろうとしている今この時間さえも無駄に出来ない。しかし学生である事を分かっていても、今日は葉璃と一緒に居ないと眠れない気がして、今度は聖南がしょんぼりする番だった。 「離れたくねぇ……」  肘置き越しに葉璃を抱き締めた聖南が小さなワガママを言うと、小動物のように可愛い顔で葉璃が見上げてきた。 「……明日、学校お休みですけど……」 「…………何っ? マジで!?」 「はい、創立記念日なので……」 「それを早く言え!」  葉璃の両肩を強く掴んだ聖南は、あまりの喜びで表情を輝かせた。  腕を伸ばして助手席のシートベルトを嵌めてやると、聖南は急いで葉璃の自宅へと車を走らせる。  ── やった、葉璃と一緒に居られる……!!  そんな飛び上がるほど嬉しい情報はもっと早くに教えといてくれよと歓喜の愚痴を思いながら、今日ばかりは隣で眠りたいという願いが叶って小躍りしそうなで勢いで喜ぶ聖南であった。

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