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葉璃の自宅へ戻り、無事である事の報告をすると家族は揃って涙を滲ませながら葉璃を窘めていた。
心配したんだからね、と泣く春香につられて葉璃ママも号泣していたが、葉璃パパは聖南の言葉通り冷静に葉璃を抱き締めて「良かった」と安堵の溜め息を吐いた。
聖南は葉璃と一緒に居たいがために両親をうまく説得し、外泊に勘付いた春香の後押しもあって、現在二人はいつも料理をテイクアウトする和食レストランに居る。
今日は店の中の個室で、モリモリ食べる葉璃を聖南が笑顔で眺めているところだ。
「── 今日始めての食事ってことか」
「そうなんです! お腹空き過ぎて気分悪かった〜」
「葉璃が逃げっからだろ」
「うっ……ごめんなさい、……それはほんとのほんとにごめんなさい」
謝りながらも食べる手を止めないので、よほど空腹だったらしい。
大食いの威力が発揮される晩ご飯の時間を有に越えていたので、あと少しで葉璃が電池切れに陥ってしまっていたかもしれない。
相変わらずよく食べる葉璃は、丼のような器の白米を軽く三杯は食べきった。
聖南の茶碗が普通サイズなのだが、葉璃のそれを見るとやけに小さく見える。この一杯で聖南は満腹になるのだから、葉璃の手前あまり食べられない自分が少々格好悪く思える。
「デザートは?」
「食べます!!」
「はいはい、これメニューな」
食事に満足した葉璃はポコッと膨れたお腹を擦っていて、非常に満たされた顔でデザートのメニューを見始めた。
いつもはぺったんこのお腹がこんなにも膨れているなんて、と驚きながら聖南もそのぷにぷに加減を堪能する。
「わぁぁ、迷うー! チョコパフェとシフォンケーキどっちにしようかなぁ」
「どっちも頼めばいいじゃん」
「それは出来ないです!」
「なんで。食いたいもん食わねぇと。……あ、このチョコパフェとシフォンケーキ」
葉璃が食べたいなら、と聖南はすぐに店員を呼んでオーダーした。
頼んでおきながら、あんなに料理を食べた後にデザート二つも食べ切れるのかと案じたが、何の事はない。
頼んだもの全てはあっという間に葉璃の胃袋におさまり、「ごちそうさまでした」と可愛く手を合わせている。
いつもより見事だったその食べっぷりに、聖南は思わず拍手してしまった。
「すげぇ、葉璃」
「えぇ、なんで拍手っ? やめてくださいよ、俺がめちゃくちゃ食べた人みたいじゃないですか!」
「いや〜マジでスゴイ。大食い番組出れんじゃないの」
「そ、そんな食べました!?」
何故食べている本人にそんなにも自覚がないのか、面白くて笑いが止まらない。
ポコッと膨れたお腹と同じように、笑い転げる聖南にほっぺたまで膨らませた葉璃は、そんなに笑わなくても……とムッとしたままウーロン茶を一口飲んだ。
それから二人は聖南の自宅へと帰宅するも、詞が降りてきたと慌てて書斎へ駆け込んだ聖南の都合により別々でシャワーを浴びた。
そして深夜一時。
眠そうな葉璃はリビングで聖南特製のアプリコットティーを、やっとの事で楽しんでいる。
「こないだのアップルティーも美味しかったけど、……俺はこのアプリコットの方が好きです」
「そうか」
ちびちびと可愛く飲み進める葉璃がそう呟いたので、巷にあるアプリコットティーを全種類揃えてやろうと聖南も同じものを飲みながら微笑んだ。
温かい紅茶を飲んだせいでさらに眠気を誘っているらしく、肩を抱いて引き寄せると脱力して聖南にもたれ掛かってくる。
葉璃の手からティーカップを優しく奪うと、テーブルにそれを置いて肩を抱き寄せる。ベッドへ行って寝かせてやりたい気持ちは山々なのだが、今日はどうしても葉璃と寄り添っていたかった。
セックスという愛情表現だけではなく、こうして何もない時間を少しでも過ごし、何よりも安心する体温を抱いて眠りたい。
聖南の胸にこてんと頭を寄せて密着している葉璃は、目まぐるしい今日一日の事など忘れてしまったかのように、スヤスヤと可愛い寝顔を見せてくれている。
── あーかわいー……かわいくてたまんねぇよ……。
愛しているのだ、本当に。
聖南のためだとはいえ、もう二度と離れたいなどとは思わないでほしい。
付き合いが不特定多数の者達にバレてしまい、それが元で葉璃が傷付くのはもちろん嫌だ。
けれど、そんな他人の非難など跳ね飛ばすほど二人が愛し合えばいい。周りなど関係ない。
お互いが強く思い合っていれば、自ずと何にも気にならなくなってくる。
聖南のためを想って行動した葉璃なら、あとほんの一押しでその域に行けそうなのだ。
── ……ま、どんだけそれを言ったところで、このかわいー根暗葉璃は俺からちょくちょく離れやがんだろうけどな。
もうさすがに、葉璃のすべてが見えてきた。
そろそろ大丈夫だろ、と思っても、こうして突然一人で突っ走り聖南の前から姿を消す前科が二度も出来てしまった事で、そう簡単に安心しては駄目だ。
葉璃はまだ、殻を破って数カ月。聖南から見ればひよこ同然である。
人見知りは未だ治らず、緊張すると震え、人という文字を必死で飲み込み始める葉璃の根っこはそう簡単には変わらない。
思っていたよりも葉璃の心の成長が早かったこの数カ月のせいで、うっかりしていた。
── 守ってやらなければならない。
弱く脆い部分をお互いに曝け出し、支え合う事で二人の付き合いは成り立つ。
脆弱な部分と、思わず笑ってしまうほどのネガティブ思考も含めて、聖南は葉璃を好きになった。
追いかけ回す事には慣れている。
これから先も好きなだけぐるぐるしていたらいい。
その都度、聖南は追いかける。
全身全霊で愛すと決めた聖南から、葉璃は一生逃れられないのだ。
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