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なんでそんな突飛な話を持ち出してくるかな。
この手の話を持ってくる春香には毎回驚かされてるけど、なんでまた!?って思いが強い。
「ちょっと待ってよ! 俺いまCROWNのダンスも覚えなきゃだし、自分達の曲も忘れたら困るし、今月終わりにはMVの撮影も入ってて俺にはそんな暇ない…」
「葉璃ならいけるよ♡」
「いやいけない! 俺にも限界があるよ! 今さらもう一曲覚えるだなんて、頭爆発する!」
「それがさぁ、今CROWNのMV観てて思ったんだけど、私達の今回の振付はわりと同じ振りの繰り返しが多いのよね〜。 試しに観てみてよ、覚えてほしい曲のMV」
「えぇぇ…嫌だ」
「はい、もう持ってきてるよ! さっ観ちゃお〜!」
そんなぁ、と俺はDVDプレーヤーの前に無理矢理座らされた。
拒否が通用しない春香に何を言っても無駄なのは分かってるけど、一番最初に影武者した時とは俺の置かれた状況がまったく変わってるから、そんな簡単に「いいよ」と言えるはずがない。
もう、とぼやいてたら、memoryの新曲MVが再生された。
セーラー服(将校さん?)に似せた衣装を身にまとい、確かに今までみたいな複雑な振付は無さそうだ。
曲さえ覚えてしまえば、多分この振付なら……二時間もあれば習得できる。
でもそんな事を言ったら絶対に「でしょ!」と春香にドヤ顔されるから、言わないもん。
「ねっ? 今回のはかなり可愛くていいでしょ?」
「…………しないよ、しないからね」
「えぇえ〜葉璃が拒否ってる〜! 生意気〜!」
俺がいっぱいいっぱいになって爆発しちゃいそうなのはほんとだけど、ただでさえCROWNのツアーに同行して大勢の人の前で踊らなきゃいけない事にビクビクしてんのに、何でわざわざ俺がまた影武者ぽい事しなきゃなんないの。
しかもCROWNのツアーの直前だ。
そして6月22日って、確か……。
その日、何か大切な予定が入ってたような気がして俺はスマホを起動した。
「あ…やっぱりだ……」
「どうしたの?」
「その日、聖南さんの誕生日だ。 公表されてるプロフィールのやつだから、ほんとかは分かんないけど…」
プロフィール上ほんとに聖南の身長が現在とは異なってる事を知ったのは、たまたま事務所にあったタレント名鑑を何気なく見た時だ。
その時一緒に誕生日も目に入って、俺の誕生日のちょうど一ヶ月前だって知ってそれにも運命的なものを感じてニヤニヤしてしまった事を思い出した。
「そうなの!? じゃあサプライズの誕生日プレゼントにしたら?」
「……は??」
「この事はセナさんには内緒にして、葉璃の勇姿を見届けてもらって、この衣装着て夜はイチャイチャしたらいいじゃない!」
「い、イチャイチャって…!? 春香、妄想し過ぎだろっ」
どうやったらそんな事を思い付くんだ!ってわなわなしたけど、そうだった。
春香は言うまでもなく女の子で、そういうロマンチックな妄想を一瞬で閃いちゃえるんだ。
それにしてもサプライズって………。
「葉璃、セナさんへのプレゼントどうしようって悩んでたんじゃない?」
「実はそうなんだ…聖南さんが欲しがりそうなものなんか分かんないし、俺誰かに何かをあげるってした事ないし…」
「……葉璃、この曲の歌詞、もう一回聴いてみて」
「歌詞?」
「そうそう。 恋する人の気持ちとか、何であなたを好きになっちゃダメなのとか、好きになる想いは止めなくていいよねって歌詞だよ。 葉璃の気持ちとリンクするんじゃない?」
春香にそう言われて、俺は再生されたmemoryの新曲を今度は瞳を閉じて聴いてみた。
…………すごい…ほんとに、俺が聖南の事でぐるぐる悩んでる気持ちそのものだ。
好きになのに、離れたくないのに、離れなきゃいけないって不安を抱えていた俺には、とても響く歌詞だ。
「あなたの気持ちは分かってるの、あなたと同じ私の想い。 大好きな気持ちは止められないの、どうして止めなきゃならない?」
「……女の子目線の歌だけど…春香の言う通りだよ…」
「そうでしょ? 葉璃の失踪事件があってから、私この曲を最初よりも感情込められるようになったよ。 セナさんを想う葉璃の気持ち、まんまかもって思うと不思議とね」
それを聞いてしまうと、いつも俺に強くあたってくる春香も、すごく俺の事を思ってくれてるって感動してしまう。
だって聖南との事で春香にはたくさん迷惑掛けちゃったし、実際聖南に告白までしたんだからそうすんなりと応援なんてしてくれないと思ってた。
それなのに春香はこの曲に感情移入してくれるほど、俺の気持ちを理解してくれてるって事だ。
逃げだした俺の不安さえも。
「……あの…さっきから事件って大袈裟な…」
「あれは事件でしょ! 我が家に人気者勢揃いしたのよ! 異様な光景だったんだから!」
「ご、ごめん。 ほんとにごめんなさい。 でもそんな興奮しなくても」
身を乗り出して同じ顔を間近にまで迫らせて憤ってきて、たじろぎながら俺は立ち上がった。
スマホを机の上に置いて、しばらく考える。
春香の案に乗ってもいいかもって思い始めてた俺は、事務所が違う今、どうしたらいいのか分からない。
置いたスマホを再び手に取った。
こういう時に頼りになるのは………あの人しかいない。
「葉璃がセナさんにあげるプレゼント、決まりだね」
背後で笑い掛けてくれた春香に、俺はまだ煮え切らない笑みを返した。
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