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CROWNのデビュー曲はだいぶ体に入ってきた。
毎日欠かさずレッスンを頑張ってるのになかなか入らない高度な振付が、ようやく俺と恭也も形が見えてきて嬉しくなっている。
ただ問題は去年の夏に発売された曲だ。
これはデビュー曲よりかなりアップテンポで振りがめちゃくちゃ細かく、リリカルヒップホップだから歌詞とリンクしてるって以前聖南にも言われてたし、講師にも同じ事を繰り返されたけど…。
手と足のテンポが違うなんて、難易度が高過ぎて全然覚えられる気がしない。
「簡単そうに踊ってるんだけどなぁ…」
俺は家にCROWNのMVのDVDを持ち帰って、姿見鏡の前で必死に振付を叩き込もうとしていた。
聖南もアキラさんも、そして振付を担当してるっていうケイタさんは当然の如く涼しい顔で、しかもこれを三人は歌いながら踊るなんて凄過ぎだ。
「葉璃ー入るよ〜」
何の迷いもなく現れた春香は、すでに我が物顔で俺の部屋へと入って来る。
「もうノック無しが定着してない?」
お気に入りの場所なのか、俺の勉強机の木製椅子に腰掛けたところをジロッと睨むも、春香はそんなのお構いなしで笑った。
「またそんなこと言って〜。 何回このやり取りやる気? あ、それCROWNのMVじゃない!?」
「そう。 俺と恭也、CROWNのツアーに同行して、デビュー曲とこの曲をバックダンサーとして踊るんだ。 あ、これ一応秘密にしといて」
「分かった、秘密なのね。 ……キャーッ♡ やっぱCROWNは三人とも顔面偏差値高いね〜! この時のセナさん、まだ金髪だ! カッコイイ〜♡」
絶対誰にも喋んないでよ?と念押ししようとしたのに、CROWNを見詰めて一ファンとして騒ぎ始めたから、俺も振付の事は一旦脇に置いて一通りMVを観た。
このMVを撮影した頃はまだ、俺と聖南は出会ってもなかったんだよなぁ。
金髪に近い茶髪のロン毛を揺らし、歌って踊るアイドル様をしばらく見詰めていると、感慨深くなってくる。
たまたま春香がmemoryに居て、同じ日にCROWNと同じ音楽番組に出る事になって、そこで春香が怪我しちゃって…。
あの日の春香の影武者を俺が引き受けなかったら、聖南と俺は今も出会っていなかったかもしれない。
すごい偶然が重なり合って巡り会って、聖南が追い掛けてくれた俺という存在。
ここにいる春香と、そして聖南もいつかに言ってくれた「必然」という言葉が脳裏によぎって、一人照れ臭くなった。
「あ、葉璃も見惚れてる〜」
「見惚れてないしっ」
って照れ隠しに言ってはみたものの、もちろん見惚れてたし、何なら出会いとか聖南と初めて喋った時とか思い出して実はニヤニヤしてたよっ。
「分かりやすいね、葉璃。 ねぇ、セナさんって二人っきりの時もあの感じなの?」
「聖南さんは変わらないよ、あのまんま」
「そうなんだ〜。 なんか葉璃にメロメロって感じだよね、セナさん。 こないだの葉璃失踪事件の時もお母さん達にあんなに丁寧に話してくれてさ。 あれからお父さんもお母さんも、セナさんの大ファンだよ」
「そ、そうなんだ……聖南さんが母さん達に……」
「超〜〜〜羨ましいっ」
握り拳まで作ってそんなに熱を込めて言わなくてもってくらい力説する春香は、やっぱり年頃の可愛さがある。
普段が強気でお喋りも多いから、たまに忘れてしまう時もあるけど…。
「春香も一応女の子なんだね」
「一応って何よ! 一応って!」
思ったままに言っただけなのに、春香にキレられた。
日本語って難しい。
「あっ、大事な事忘れてた!!」
はは…と乾いた笑いを漏らしていると、春香がパチンと両手を叩いた。
「な、何? ………もう影武者は嫌だよ」
「影武者じゃないよ〜! 私ピンピンしてるじゃない。 6月22日の土曜日、Tzホールでmemoryの単独ライブがあるんだけど…」
「えぇぇ!? 6月ってもう一ヶ月後じゃん!もっと前から決まってたよね、それ? 教えといてよ!」
「だって葉璃忙しそうだったから話し掛けられなかったんだもん。 レッスン終わって帰ってきたと思ったらもう寝てたし、週末はセナさんとこ行っちゃう事多かったし」
春香の言う通りだ。
レッスンでクタクタな上に、隙あらば聖南と都合を合わせてちょくちょく外泊してたから、こうして春香とまともに話すのも何だかんだで久しぶりだった。
「あ…そっか…ごめん。 …で、ライブがどうしたの?」
「後々memoryの姉妹グループ作るかもって話があって、その、まぁまだ仮みたいだけど応援って形で11人選ばれてmemoryのバックダンサーで付くのよ」
「うん。 それで?」
何故か春香は姿見鏡の前に立つ俺の元までやって来た。
「memoryはダンススクール出身でしょ? 葉璃もうちのダンススクール出身じゃない? 11人って何か半端な数だと思わない?」
そうなんだ、memoryにも妹分的な、CROWNでいう俺達みたいな存在が出来るかもしれないんだ。
すごいな、memoryとしての春香も最近忙しそうだもんな。
年末年始の歌番組の影響か、春香達はさらにまた注目を集めててテレビや雑誌でも度々取り上げてもらえてるみたいだ。
だからって春香の言わんとする事なんか分からない。
おかしくないでしょ、11人だったらフォーメーション綺麗に揃うはずだし。
「え、別に思わないけど…」
「鈍いわねー!! 葉璃もそれに出てほしいって言ってんの!」
「……え、え、っえぇぇぇ!?!」
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