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 聖南は両利きなので、右隣に居る葉璃が食べにくかったらと思い左手でフォークを握っていた。  すると、ふと右手を握られて初々しくも心臓がドキッとしてしまう。  ケーキから葉璃へ視線を移すと真っ直ぐに見詰めてきていて、聖南の手をさらにギュッと強く握ってきた。 「俺、聖南さんのためだったら何でも出来る気がします。何でもがんばれそうな気がします。ほんとに、感謝してます。……お、俺を好きになってくれて、ほんとに……っっ」 「えっ? おい、泣くなよ! ……ここは俺が泣くとこだろ。ほら、おいで」 「ごめ、ごめんなさい……! 絶対泣かないって決めてたのに……っ。うぅぅ……」  話している最中からすでにうるうるし始めていたが、やはり止まらなかったようだ。  葉璃を椅子ごと聖南の方へ向かせると、抱き締めて背中を撫でてやる。  ── 感謝してんのは俺の方だって……。  腕の中でシクシク泣いている葉璃が、同じく感極まっている聖南を見上げて、追い打ちをかけるように真っ向から心臓を撃ち抜いてきた。 「……聖南さん、……大好きです」  鼻を啜りながら、言わずにはいられなかったらしい「大好き」という言葉。  葉璃は照れながらも聖南に思いの丈を伝えてくれて、泣き顔にもかかわらずその強い瞳にすべてが込められていた。  出会ってから今日まで、いつも聖南が葉璃を追い掛けていた関係性がついに対等になれたような、なんとも甘酸っぱいときめきが全身に広がっていく。 「俺も大好き。 俺の方が葉璃に感謝してるよ。……出会ってくれてありがとう、葉璃」 「……うーっ! やめてください、そんな……! ぅぅぅ〜〜っっ」 「そんな泣いたらケーキ食べらんなくなんぞ? もぐもぐ葉璃ちゃん見せてよ」  あまりにポロポロと涙を流すので、可愛いなぁと思いながらもう一度葉璃の背中を優しく撫でた。 「……もぐ、もぐ……」 「それ言ってるだけじゃん!」  あと数分泣かれてしまうと聖南もとうとうもらい泣きしてしまいそうだったが、当人である葉璃が笑かしてくれた。  言いながら口を動かしているだけの姿は、うさぎかハムスターが咀嚼している時の口元にソックリである。 「せっかく葉璃が用意してくれたんだから、俺は食うぞ」  葉璃が体にしがみついてきているので、聖南は自分の皿を手に取ってそのまま食べ終えた。  ビターチョコのほろ苦くもコクのあるほのかな甘さ、そしてフルーツの食感や甘みは絶妙で、辛党の聖南でも美味しく頂けた。  甘いものが苦手な聖南のために、いくつもリサーチして探し出してきてくれたものだろうから、葉璃も一緒に食べてほしかったのだが。 「……今は、食べられないです……! お祝いだから食べなきゃなのは分かってるんですけど……! なんか……聖南さんと離れたくない……」  ぎゅぅぅっと強くしがみついて来る葉璃は、言いながらまだ鼻を啜っている。  感極まっているのは分かるが、あまり泣かれると聖南も涙腺を刺激されてしまうので「泣くなよ」としか言えなかった。 「無理です、ずっと我慢して、っうぅっ、してたからっ……」 「葉璃、顔上げろ」 「…………ぅぅっ……」 「なんで下唇出てんの。……かわいーなぁ、マジで……」  見上げてきたのは、何故か泣きながらのイジけ顔だった。  ふっと笑い、頬を伝う涙を舐め取ってやる。  こんなにも愛おしい人と巡り合えるとは、あの葉璃との出会いの日は本当に運命的だったとしか思えない。  「可愛い!」と柄にもなく騒ぎ、収録も忘れて葉璃の存在に取り憑かれていたあの時から、聖南の恋は始まり現在もその想いは膨れ上がる一方なのだ。  葉璃が男だと判明した三十分後にはその事実を受け入れられた事からも、聖南が一生をかけて愛すべき人だと証明できる。  この腕の中で必死に声を殺して泣く葉璃を、これからも大切に大事に愛でていこう。  何を考えているか未だによく掴めない。  そんなところがまた好きだけれど、この調子だといつまでも泣き続けそうなので、せっかく祝ってくれるなら可愛い笑顔を見せてほしい。 「はーる、いい加減泣き止めよ。俺の誕生日終わっちまう」  葉璃からべったりくっついてくれる事がこれまで無かったので、正直なところ、永遠にこのままでもいいと危ない思考に走りそうになる。  葉璃自身も、一度涙を流せば堰を切ったように止まらなくなる事が分かっていたから我慢していたのだろうが、現にまったく止まる様子を見せない。 「そ、そうですよね……! 分かってる、分かってるけど止まんなくてっ……! ひっ」 「……あ? ほら、そんな泣くからしゃっくり出だしたじゃん」 「もうっ……ひっ……いっつも俺こんな……! ……ひっ……カッコつかないですよねっ……ひっ」 「あはははは……!! ……あーやば。おもしれぇ。葉璃のしゃっくりっておもしれぇんだよな~! まぁ確かに、カッコつかねぇな?」  聖南が持つ葉璃への愛と、思いがけない葉璃からの愛に胸を打たれてしんみりと浸っていたところに、これだ。  葉璃の「ひっ」で空気がガラリと変わってしまい、聖南は腹を抱えて爆笑した。  もらい泣きしそうなほど感動に震えて涙腺は崩壊寸前だったのが、爆笑によってまた違った意味でそれを流させるなど……忙しいではないか。 「聖南さん、笑い過ぎ! ……ひっ」 「しょうがねぇだろ、葉璃が笑わせるから。これ飲んで、三十秒息止めてみろ」 「……ほんとやだ……ひっ……穴があったら入りたいよ……ひっ」 「俺もその穴に一緒に入るけどな」 「それじゃ意味ないっ……ひっ!」 「いいから飲めって! 俺を笑い死にさせる気か!」

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