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❥  ツアー初日の今日は、ラジオの公開放送日である事はファンも承知の上なので、ライブ直後の冷めやらぬ興奮を抑えてCROWNを待っていてくれた。  CROWNのオフィシャルHPやチケット販売元各社、メディアでの宣伝時、そしてライブ前にスタッフからの口頭で事前に注意喚起していたおかげで、五千人以上も居るホール内にも関わらず場は静まり返っていた。  ステージ上には大きな丸テーブルが置かれ、その上にマイクなどの機材が設置されている。  中央に聖南、向かって右側のアキラがハガキやFAX読み上げなどのアナログ系を担当し、左側にはパソコンを前にデジタル系を担当するケイタが居た。  三人の表情は左右に配置された特大モニターによって映し出されるようになっている。  ケイタ側の舞台袖と、離れた音響室ではラジオスタッフに代わってツアーの音響スタッフがそれぞれスタンバイし、すべてを担ってくれる。  不測の事態が起こった時のために、いつものラジオスタッフはスタジオで待機して遠隔指揮を取ってくれる段取りにもなっているので、準備は抜かりない。  ステージ下方からスタッフが手のひらをかざしてきた。  本番五秒前の合図だ。  午後二十一時の時報の後、CROWNのデビュー曲の前奏をアレンジしたものが15秒流れた。 『はーい、こんばんはーCROWNのセナでーす』  録音によるタイトルコールのあとに聖南がまずリスナーへと挨拶をし、アキラとケイタもそれに続く。 『こんばんはー、CROWNのアキラでーす』 『こんばんはー、CROWNのケイタでーす』 『毎回言ってっけどさぁ、言い方真似しなくていいって』 『リーダーにならっただけだろ』 『それもアキラ毎回言ってんだろ! そろそろ飽きねぇ?』 『じゃあ何か考えよーぜ、三人それぞれの自己紹介』 『それは今さらだから遠慮しとく。 ケイタだけ考えててよ。番組終了間際に出来たか聞くから捻り出せ』 『え!? なんで俺だけそんな課題与えられてるんだよ……。考えよーぜって言ったのアキラじゃん』 『いや、ここは最年少のケイタが「ぜひ俺にやらせてください!」って言うとこかなと』 『そんなぁ……俺しばらく無口になると思うけどいい?』  ケイタが客席に向かって問うと「だめー!」と至るところから返事が返ってくる。  そこで聖南がようやく今日の説明に入った。 『えーっと、今リスナーにも声届いたと思うけど、今日はCROWNのツアー初日で現在公開生放送中です。送ってくれたハガキとかリアルタイムのメッセージを読むのはいつもと変わんねぇけど、今日流すのはCROWNの曲だけな』 『そうなんだよね~! こんな広いとこで、しかも五千人に囲まれての生放送だなんてなかなか出来ない経験だよ』 『セナが取り締まった日程がこんな経験をさせてくれてます。ありがたい』 『だから取り締まったはおかしいだろって。警棒持ってる俺想像しちまうんだけど』  微かに巻き起こる控えめな拍手と笑い声が聞こえて、この場に居るファン達の生の反応が心地良い。  ケイタはパソコンのマウスから手を離さないまま、ぷっと吹き出して聖南をチラと見る。 『いいじゃん! セナみたいなの居そうだよ。ちょっと遅刻の多い警備員さん』 『なんで遅刻が多いんだよ!』 『セナは現場に遅刻した事ないけど、ギリギリまで寝てる事多いもんな。ケイタの言ってる事なんとなく分かる』 『それ関係ないじゃん。遅刻はしてねぇんだからギリギリまで寝てたっていいだろ』  ここ一年ほど前からアキラとケイタはタッグを組んで聖南をイジる側に回るので、葉璃が放送終わりにいつも「面白かった」とメッセージをくれるがとても複雑である。  最年長で芸歴も長い聖南にこんな軽口を叩けるのは二人しか居ない。  その二人が、何故か今日は絶好調に聖南をイジりまくる。 『セナは支度が早えんだよな。たまに寝癖付けたまんま来るからウケる』 『そうそう! 寝起きのセナって機嫌悪いから早朝の現場来た時、超~~厳つい顔してるしね』 『寝起き悪くねぇよ! こんなに大勢の前でどんだけ俺の事ぶっちゃけんだよ!』 『せっかくだし、生のファンの笑い声聞きたいじゃん』 『幸せだね、めちゃくちゃ笑ってくれてるよ』 『おい! 今笑った子挙手! ハグの刑だ!』 『それ罰にならないな』 『ほら、キャーッ♡って。あーあ、会場中が手挙げてるよ。全員とハグしなきゃだから放送時間内に終わるかな?』 『無し無し! 今の無し! ライブ終わりでシャワー浴びてねぇし蒸し暑いから俺汗でベタベタなんだよ、ハグしたら嫌われる』  ライブ中、聖南が汗だくな様をファンも見ていただろうから「やだー」と拒否されるかと思っての発言だったが、ファンからしてみればアキラの言う通りまったく罰にはならない。  むしろ、お願いしまーす!とあちこちからそんな声が飛んできて慌てて訂正した。 『それでもいいってよ、セナ』 『セナが言い出したんだから収集付けろよ』 『分かった分かった。中盤で今着てる俺らのTシャツプレゼント大会やるから許せ。チケット番号確認しとけよー!』 『俺らのも?』 『別にいいけど俺とケイタも巻き添えにしやがったな』 『俺らCROWN三人は一心同体だからな。俺が半裸になる時はお前らも半裸だ』  聖南の突然のプレゼント大会告知に会場が色めき立つ。  思い付きとはいえ、我ながらいい提案であった。  アキラはそう言うが、ファンも喜んでくれるし、一人だけ半裸になるのは浮くだろうからこっ恥ずかしい。  ここに居る全員と汗びっしょりハグをしなくてもよくなったと安堵しながら、ドヤ顔を決める。 『なーんかカッコいい事言ってるけど、これ一人だけ半裸になるの恥ずかしいから、俺とアキラにもやらせる魂胆で言ってるんだよ。みんな騙されないでね!』  ケイタの含み笑いは、まさに的中だった。  やたらとイジってくるケイタに、聖南は八重歯を覗かせてニタニタした。 『さーてケイタ、自己紹介は捻り出せたかなー?』

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