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「やぁ、こんばんは」  聖南だと思って振り向くと、そこには聖南に似てるようなそうでないような、背の高いダンディーな男性が立っていた。 「お、お、お父さん……!!」  待って待って待って! なんで!?  なんで聖南のお父さんがここに……!? 「聖南が一度も呼んでくれない「お父さん」を、まさか君の口から聞くなんて」 「ヒィィッッ! ご、ごごごめんなさい!! あ、あの時も、大変失礼な事を言ってしまいました! ごめんなさい! ごめんなさい!」  俺はまさかの聖南パパ登場にビビり上がって、人見知りだとかそんなの関係ナシに怒鳴り上げたあの日の事をひたすら陳謝した。  ど、どうしようっ!? 怒ってるのかな!?  こんな所に引っ張り込むって事は、俺に詫びさせようとしてるんだと思って、深く頭を下げて「ごめんなさい」と言い続けた。  聖南に寂しい思いをさせて、放任し続けて無償の愛を教えてあげないまま縁を切ったお父さんは、そういえばこのツアーを仕切る主催会社の副社長だった事を思い出す。  会食の席でも聖南に無神経な事を言っていたお父さんだから、とても許せはしないけど、赤の他人である俺から怒鳴られるいわれは無かったはずだ。  決していい気はしなかっただろうから、きっと、物凄く怒ってるんだ……!! 「ごめんなさい……! ほ、ほんとに申し訳ありませんでした……っ!」  頭の中が真っ白だった。  そうだと思い込んで振り向いたけど違う人だった、ってのはよくある話だと思う。  だけどよりにもよってなんで聖南のお父さんなんだよーーっっ!! 「そんなに謝られると、後から聖南になんと言われるか。ほら、顔を上げなさい。謝ってほしくてここに連れ込んだわけではないよ」  怒っているはずのお父さんは、笑みでも浮かべてそうなほど穏やかに俺の肩に手を置いた。  顔を上げると、聖南によく似た瞳とぶつかる。  に、似てる……! この間はあんまり分からなかったけど、よく見ると目と鼻筋が聖南とそっくりだ……! 「…………っ! で、でも……!」 「聖南に何度も食事に行こうと誘ってるんだが、忙しいとか何とかでフラれ続けているんだ。君を交えて食事がしたい。いつなら都合が付く?」 「……食事……ですか……っ?」  どういう事……!?  目の前に聖南のお父さんが居るってだけでも頭が混乱してるのに、食事って……。  しかも、いかにも聖南と近々に話をしたような口振りに違和感を覚えた。  聖南もお父さんを一生許せないと言ってたし、会食の日から会う事はおろか連絡も取り合ってないと思ってたけど……違うのかな……? 「そうだ。君達の仲は知っている。聖南に生命力を与えてくれているのは君なんだろう? 葉璃君」 「そ、それは……!」 「隠さなくてもいい。私はすべてを知っても君達を応援すると聖南にも言い伝えてあるのだ。食事、しようではないか」 「……っ、い、いや、でも……あの……!」  そうだ、あの日俺がキレちゃった事で社長にバレてたんだから、同席してたお父さんにもバレてないはずがなかった。  だからってどうして俺を交えて食事がしたいなんて言うの……。  聖南から何も聞いてなかったから、俺はまだ聖南とお父さんの確執は深いと思ってる。  狼狽えっぱなしの俺に、お父さんが優しく微笑んだ。  すごい……目元はソックリなのに笑顔は聖南と全然違う。 「聖南と私なら和解……とまではいかないが話が出来るほどまで関係は修復しているよ。何も心配いらない。過去の事は完全に私一人に非があった。君からも怒られて、このままではいかんと考え直したのだよ」 「えぇ!? せ、聖南さんが許したんですか!? あなたを!?」  そんな事があり得るの……!?  もしかして口からでまかせ言ってるんじゃ……と訝しんだけど、俺にでまかせ言っても何のメリットもないだろうからほんとなんだと思う。  驚きの連続で瞬きを忘れてて、目が乾いた。  どういう経緯かは知らないけど、聖南ってばこんな大事な事を俺に話さないままだったなんてヒドイ! 「許した……うーむ。許してもらったのかは分からないが、康平と呼んでくれているよ」 「こ、康平!?」 「私の名だ。 君からはお義父さん……いや、パパ、と呼ばれたいな」 「パパ!? ちょ、ちょっと待ってください、えっ? 聖南さんがお父さんを……」  いやいや、そんなの呼べないよ!  知らないうちに二人の関係が修復されている事も、パパと呼ばれたいと言われた事どちらにも驚愕して、聖南と同じ薄茶の瞳を見詰め返すと真顔で訂正される。 「パパ、だよ」 「……っ!? 聖南さんと、パ、パパは和解したって事……ですか……?」 「そうなっていると信じたいが……。お、私の息子であり、君の恋人が来るぞ」  お父さん……あ、違った。  パパは、廊下の足音に耳をすましている。  聖南も相当マイペースだけど、パパはその上を行っていておまけにあんまり偉い人ぶってない。  耳に手をやってドアの向こうに聞き耳を立てている姿は、大会社の副社長にはとても見えないほど茶目っ気たっぷりだ。  コツコツ、と踵を鳴らして早足で歩く足音が徐々に近付いてきていた。  廊下にはスタッフさんも多数行き来していて、それが聖南かどうかなんて分かりっこないのにそう信じているパパは、扉をじわりと開けて廊下へと腕を伸ばした。  そして思いっきり腕を引き込んで現れたのは、パパの読み通りCROWNのツアーTシャツを着た聖南だった。 「うぉっ!?! なんだ! 誰だよ! ……って、康平じゃん」  ライブ直後の聖南は、アドレナリンと共にとてつもない男のフェロモンが大量放出されていて、驚いている声と後ろ姿だけでよだれもんなほどキュンキュンした。 「聖南、お疲れ。君の恋人もいるよ」 「ん、……えっ!? 葉璃!? おい康平! お前余計な事言ってねぇだろうな!?」  振り向いた聖南と目が合って、数歩歩んできた聖南はギュッと俺を抱き締めてくれる。  あー……聖南だぁ……。 「葉璃、康平から何か聞いたっ? てか嫌な事言われたりしてねぇっ?」  聖南の香水の匂いに包まれて、今日一日避け続けてしまった自分を恨んだ。  ぐるぐるしててもいいって言われても、ちゃんと聖南と向き合わなきゃいけないのに。  でも、言い訳するなら、なんでエッチしなかったの、なんて聞けるはずもなくて……。  聖南が俺の瞳を覗き込んで、「葉璃?」と心配そうにほっぺたを撫でてくる。 「い、言われてないですよ、何にも! 俺まだ状況呑み込めてないけど……。パパが聖南さんと食事したいんだって! 行ってあげてくださいよ!」 「パパ!?」

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