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63・⑤必然ラヴァーズ

63・⑤必然ラヴァーズ 聖南が佐々木と共に早急に救出してくれた事で、葉璃はそれほど恐怖感を覚えていないと話すと、恭也はその点に関してはホッとした様子を見せていた。 「葉璃、その……傷、見てもいい?」 「いいよ。 ……はい」 着替え終わった葉璃の元へ恭也が近付くと、躊躇なくシャツを捲って右脇腹の患部を晒す。 冷やすように言われていたが、出番を迎えるとそれは無理な話であった。 赤くただれた患部を見て、恭也が息を呑む。 「……っっ。 これ、…痛くないのっ?」 「今結構痛い、かな。 さっきまでそんなに痛くなかったんだけど…応急処置する時に消毒してくれて、そこからちょっとだけ」 「そう………。 葉璃、怖かったね、痛かったね、…可哀想に…。 おいで、……」 痛いと言うわりには冷静な葉璃が何だか気の毒で、恭也はそんな強がりな親友を優しく抱き寄せた。 聖南から許しを貰っているからと、半ば好き放題である。 数分何も言わずに抱き締めていたが、葉璃の親を待たせている事を思い出して恭也は渋々葉璃から離れた。 「葉璃、そんなに痛そうな傷があるなんて、誰もが信じられないくらい、素晴らしいパフォーマンスだったよ。 俺は葉璃に、ついて行っただけ。 葉璃が居ないと、俺は何も輝けない。 ……キラキラしてた葉璃の事を、誇りに思うよ」 「………恭也……」 「急がないとね。 救急病院に、行くんでしょ? 引き止めて、ごめんね」 真摯な瞳で労ってくれる恭也の思いが、未熟だからまだまだ成長しないとと自身を奮い立たせていた気持ちを強く揺らした。 恭也がそうやって温かい言葉でいつも勇気付けてくれるからこそ、葉璃は前を向いていられる。 聖南やアキラ、ケイタからの言葉もとてもありがたいけれど、同じ目線に立つ恭也の存在は親友の域を大きく越えていた。 何とも言い難いが、それは、恋人である聖南の立場とよく似ている。 恭也が居ないと、葉璃は生きていけない。 必然に導かれて、根暗だった二人が今やアイドルの仲間入りをするだなんて、誰が思っただろうか。 そして何故、その二人が葉璃と恭也だったのだろうか。 運命とは時に情け深いものだ。 支え合う二人を引き寄せて、結び付かせ、そのまま留めさせてくれるのだから。 「恭也、恭也…っ。 俺も恭也がいないとETOILEやっていけない…! ステージに立つ楽しみも、ワクワクも、恭也が居てくれるからなんだよ! 恭也が居なきゃ、俺なんて…っ、俺なんて…っ」 「葉璃、分かってるから。 俺達は昔も今も、似た者同士、でしょ。 最近の俺は、セナさんの方に似てる気も、しなくないけど」 「っっ、意地悪だもんね………最近の恭也…」 「いや、本気で、意地悪してるつもりはないんだけど…」 「そういうとこ、聖南さんと似てる…!」 内気で、あまり思っている事を口に出せなかった恭也の変貌ぶりに、一番驚いているのは葉璃だ。 目の前で色気たっぷりにクスクス笑う恭也の笑顔が、葉璃にどれだけ安心感を与えてくれているか、それを言葉にするのが照れくさいほどである。 「ふふっ…。 葉璃、今日の事は、いい思い出だけ、持って帰ろうね。 …さ、行こうか」 「うんっ」 葉璃と恭也が廊下に出てみると、たくさんのスタッフ達から拍手で送られてしまい、何とも気恥ずかしかった。 表舞台に立つ事にまだまだ慣れない二人は、ペコペコと頭を下げながらその場を後にする。 名残惜しくも恭也と別れ、葉璃は観覧に来てくれていた母親の車に乗り込んだ。 そこには春花も同乗していたが、「お疲れ様」と微笑まれてそれからは無言だった。 葉璃は、後ろ髪引かれるように車窓からドームの外観を眺めた。 「……………大きかったな…」 何もかもが、大きかった。 もちろん会場そのものもだが、CROWNのファンの器の大きさ、関わる人々皆の力量、演者達の存在感…。 葉璃が立つにはまだ早過ぎると、今さらになって震えがくる。 ステージに立っている時は微塵も感じなかった緊張も、不安も、無事に終わった安堵からか急に出番前のようにドキドキし始めた。 帰宅前に救急病院へ寄り、少々の待ち時間のあと皮膚科医によって治療を受けたが診察と消毒だけで事なきを得る。 ただし、傷痕がどうなるかは分からないと言われた。 ジクジクと痛むなら痛み止めも有効だと言われたけれど、必要ないと断る。 薬を飲むほどではないし、成長痛が起こっていた際に痛み止めは毎日飲んでいたので、薬はもう飲みたくなかった。 「葉璃、今日は本当にお疲れ様。 ゆっくり休みなさい。 あまり詳しい事は知らないけど、お母さんはあなたを誇りに思うわよ」 自宅に着いてから、二階へ上がろうとした葉璃へ母親がそう言って微笑んでくれる。 先程の恭也に続き、またしても、誇りに思うと言われた。 何だか照れる。 そんなに大層な事は、葉璃はしていない。 ETOILEとしてのパフォーマンスはもはや葉璃の生業としてやっていかなければならない事だし、事件の事については必要悪だったとさえ思う。 母親が林からどの程度まで話を聞かされているのか知らないが、葉璃は穏やかに、何事も無かったかのように微笑んで「ありがとう」と返した。 「母さん、俺がんばるからね。 見てて」 「えぇ、もちろん。 葉璃も春花も、キラキラしてて素敵よ。 母さん鼻高々なんだから」 「へへ……」 「さっ、葉璃、寝よ寝よ! おやすみ、母さん!」 「おやすみなさい」 照れてニタニタしていると、春花に背中を押されて階段を踏み外しそうになった。 当然のように葉璃の部屋へ入ってきた春花は、いつもの学習椅子に座る。 久しぶりの感覚に、つい笑ってしまった。 「春花、ライブありがとうね。 佐々木さんがmemoryを集めてくれたんだって?」 「そうよ。 私達、たまたま近くのスタジオで雑誌取材受けてたの。 佐々木さん、葉璃が出演するからCROWNのライブに行くって言って抜けてて、私達にはチーフマネージャーが付いてたから。 だから全部が迅速だったわ」 「そっか……迷惑かけたね…」 「葉璃! 一番の被害者のあんたが気に病む事ないの! 私達も、スタッフさん達も、CROWNのファンの人達も、みんなが楽しんだんだからそれで良し!」 「そうなのかなぁ……」 葉璃の知らないところで別事務所まで関わっていると知った時は、さすがに驚いて申し訳なさでいっぱいだった。 決して葉璃が悪いわけではないのに、責任を感じてしまうのは性格上仕方がない。 立ったまま唇を尖らせて唸る葉璃のポケットから通知音が響いても、微動だにしなかった。 「葉璃、スマホ鳴ってる。 LINEじゃない?」
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