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【必然ロマンショー】❥出会い❥
高度経済成長期、戦後の日本はめまぐるしく発展を遂げている。
街並みも、物資も、食べ物も、西洋からの文化や融資をじわじわと取り入れて、新しい日本が形成されつつある。
国と我等の暮らしをよくするために、互いに競い合うようにして、ヒトはがむしゃらになって働いた。
と同時に、医療が発達していくにつれ、最近になってようやくヒトの性別の違いが知れ渡るようになってきた。
大方、それも高度な医療を受けられる者だけが知り得る情報ではあるのだが。
大手製薬会社の社長の息子、男α性の日向 聖南は、歌唱する歌人を生業として生計を立てている。
聖南の身の回りの世話をする男β性の成田を引き連れて、夜毎様々な豪華絢爛なキャバレーを渡り歩き、多くの金持ち達に歌声を提供している。
その日も、得意先であるキャバレーでの出番が控えていた。
この街で一番規模が大きく、豪奢で、入る客層も他とは桁違いに上流階級である。
そんな重要な舞台での歌唱前にも関わらず、少しだけ遅刻をしてしまった。
理由は簡単で、ただ単に見ず知らずの女とセックスしていただけだ。
少々お痛が過ぎる聖南は、誰彼構わず気に入った女性と淫らな行為に走る、典型的な遊び人だ。
女であれば、性は問わない。
一つだけ注意している事と言えば、発情期のΩ性には近付かない、という事。
聖南は家庭など持ちたくなくて、我を忘れた上によく知りもしない女と番になるのはごめんだった。
嗅覚と感覚さえ研ぎ澄ましていれば、相手の性などすぐに判別できる。
幾人もの相手と交わってきた、いわゆる経験の賜というやつだ。
「聖南の出番は最後らしいから、しばらく観覧していようか」
支配人に頭を下げていた成田が聖南の元へ戻ってくると、早速ショーが始まっているキャバレー内へと入った。
「そうだな。 これだけ出演歌人がいたら裏もギューギューだろ。 嫌だ嫌だ」
「まったく。 聖南のお遊びもほどほどにしろよ。 俺の頭は支配人に下げるためにあるんじゃないんだからな」
「悪かったよ。 でも誘われたんだからしょうがねぇだろ。 据膳食わぬは男の恥って言うからな」
「聖南は据膳だらけだろう。 少しは選り好みしてもいいと思うがな」
「毎日違う体を楽しめて、俺は満足だ」
「……いつか大事にならないといいが」
成田の説教もほとんど毎日の事である。
きちんと聞いていない聖南の適当な返事もだ。
今日は出演者が十五組も居るらしいので、聖南と成田は客席中央のソファに向かった。
そこ空けて、と王様憮然として言い放つ聖南の美貌を見るや、元々その場所をキープしていた客達が一斉に別のソファへ移ってしまう。
「ちょっとズレてくれるだけで良かったのに。 みんな優しいな」
「ははは………」
自身の見た目を知るはずの聖南は、こうして度々、少しばかり浮世離れした発言をする。
子どもさえ出来なければいいだろう、と性に奔放な聖南の付き人として、成田はこれまで何度も危ない橋を渡ってきた。
ゆくゆくは父親の会社を継がなければならないというのに、歌う事が好きだからと、毎晩派手で奇抜な着物でキャバレーの舞台に立ち、その美貌と歌声で大勢の客達を虜にしている。
聖南の展望としては、あと十年はこのまま気楽な暮らしをし、思う存分遊びを楽しんでから仕事に尽力しようと目論んでいた。
まだまだ遊び足りない。
将来を約束された、せっかくのα性。
楽しまなくては損だ。
「聖南、見てみろ。 あれはまだかなり若いぞ」
今日の夜の相手はどの女だろうかと、着飾った配膳係や客席の女達をジロジロ見ていた聖南は、成田に肘打ちされてふと舞台を見た。
女は若ければいいってもんじゃない。
そう言おうとした聖南の動きが止まる。
「あのな、女ってのは……………」
舞台には、小柄な女がぽつんとスタンドマイクの前に立っていた。
格好はというと、清潔そうな木綿のシャツ、ピタッとした素材の真っ赤なミニスカート、同色のハイヒール。
時代錯誤な妖艶スタイルである。
小顔に収まったパーツは美しくなるよう見事に配置されていて、この時代には珍しくかなりの薄化粧、またあのゆるやかにカーブした長い髪もいい。
『うわ、かわい』
少々小柄過ぎるが、その女の出で立ちだけで、とてつもなく聖南の興味を引いた。
何かに怯えるようにギュッと瞑られていた瞳が、曲が流れ初めてゆっくり開眼される。
『……………っっっ!』
その刹那、聖南は───撃ち抜かれた。
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