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【必然ロマンショー】❥出会い❥②

なんだ、なんだ、この胸のドキドキは何なんだ…! 聖南は胸元をガシっと掴んで舞台に見惚れた。 姿も、容姿も、声も、聖南が気に入るところしかない。 女にしては少し低めだが気にするほどでもない、その歌声にすら酔いしれた。 まだあまり特訓されていないのか、声が震えている。 これだけ大勢の前で歌った経験がないのかもしれない。 そんな初々しいところも、すごく気に入った。 『今夜の相手はあの女で決まりだ』 ニヤリとほくそ笑み、勢いでテーブル上にあった酒を食らう。 先ほど聖南の圧力で逃げて行った客達の酒が、テーブルに所狭しと並んでいた。 『う、まず! しまった…酒飲んじまった』 聖南は酒が飲めない。 だが自分が飲めなくても女達を酔わせて狂わせてきた自信から、曲が終わるや否やおもむろに立ち上がった。 歌唱が終わった女は、歩き慣れないらしいヒールでもたつきながら舞台袖へと捌けていく。 「おい、聖南。 どこへ…」 「あの女落としてくる」 「は? 冗談だろう、あの女はまだ…」 「久しぶりに上玉見付けたんだ。 味わわずにいられるか」 そう言うと、胸元を押さえたまま聖南は舞台裏の仕度部屋へ向かった。 幾人もの歌人達が聖南を見付けて挨拶をしてくる。 この中にはβ性の女が何名か居て、聖南はそのすべてを味見済みだ。 「聖南さ~ん♡ 今晩どう?」 「おぅ、悪いな。 今夜は先約がある」 「残念~。 また誘うわね♡」 こんな会話を人前で安易にしてしまう奔放さをも、聖南の魅力になってしまっている。 『どこだ、どこにいる…?』 こうしている今も胸のドキドキが治まらない。 早くあの女をこの目で拝みたい。 口説けば絶対に落ちると信じて疑わない聖南は、仕度部屋の最奥でその姿を発見した。 『居た!!! よし、俺なら口説くまでもなく瞳を見詰めたらイチコロだろ』 歌人達を掻き分け、聖南はドキドキが静まらない胸元を握ったまま、突然やって来た長身の男に驚いた様子の女の前に立った。 そして、見上げてきた瞳にまた撃ち抜かれた。 『…っ。 てか思ってた以上に小せえな。 ヒール脱いだらさらに小せえって事じゃん』 舞台を見ていて小柄だと思っていたが予想以上だ。 ジッと聖南を見詰めてくる瞳を直視できないほど、何かむず痒いものが内臓付近をぐるぐるした。 「いつから歌ってる?」 「………………?」 「あ、自己紹介がまだだったな。 俺は日向聖南。 君は?」 「…………………」 女は首を傾げたまま、返答をくれない。 どうも表情を見るからに、聖南を鬱陶しがっていそうである。 初めての経験だった。 これまで、聖南が目を見て話し掛けるだけで相手の頬がポッと染まっていたというのに、どういう事だ。 むしろ聖南が口説く前に、女の方から抱いてくれと申し出てきたほど。 聖南は神経を研ぎ澄ませて、感じ取る。 『まだ微妙なとこだけど…β性か?』 まだ若そうなこの女は、今はβ性でも突然Ω性に変異してしまう可能性がある。 ただ、それでもいいと思ってしまった。 初めてだ。 目の前に立ってみて分かった。 『なんだろ、こいつ絶対に離しちゃなんねぇ気がする』 黙りこくって聖南を見上げてくる、あどけない真っ白な頬に触れようとした。 なぜ話をしてくれないのか聞きたいと思ったが、それは叶わなかった。 「はるか、今日はありがとう。 遅くならないうちに帰ろうか」 「……………………」 やって来た賢そうな長身の男が、女を「はるか」と呼んで肩に手を回した。 「はるか」は、聖南から視線を外してその男を見上げ、小さく頷いている。 聖南には何の応答も寄越してくれなかったのに、この男にはそれを許している。 胸糞悪い。 「おや、聖南さんじゃないですか。 うちのはるかに何か御用でも?」 「………はるかっていうの、その子」 「えぇ、まぁ。 この子は私、佐々木のものですが」 「……………は?」 「はるかは今日が初舞台でしたので、疲れています。 お先に失礼しますね」 佐々木と名乗った男が「はるか」の手を取り、聖南の脇をすり抜けて去って行く。 『なんだ、意味分かんねぇ。 なんでお前のものなんだよ。 ……俺のだろ』 呆気にとられていた聖南は、一目惚れした「はるか」の背中を黙って見送るだけなど出来るはずもなかった。 出番が控えていると分かっていた。 頭ではちゃんと、分かっていた。 けれどあの瞳に撃ち抜かれた衝撃が、まだ心臓を揺らしているのだ。 今夜の相手は「はるか」に決まった。 『誰のものでも知った事か。 あいつがたとえΩでも俺はやめねぇぞ』 この一心で、聖南は二人の後を追った。

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