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Ⅰ ──十月某日──

1♡〜ハロウィン特別企画〜 ──なんでっ? なんで俺だけ? 「葉璃、いつまで、膨れてるつもりなの」 「………………なんで…俺だけ…」 「仕方ないでしょ。 作家さんが、そう決めたんだから。 とっても、似合ってるよ」 「〜〜〜っっ」 唸らないの、って恭也が微笑む。 いいじゃん、恭也は白衣着てるんだから。 ちゃんとしたお医者さんが着るような、ドクターコートを着てるのは恭也だけじゃない。 CROWNの三人もドクターコートを着てる。 それなのに俺は、………女性もののナース服だ。 頼んでもいないのに、これは何故か超ミニ丈。 ついでに、本来無いでしょってくらいの厚底ナースシューズも履かされて。 「今はしてる看護師さんあんまり見ないけど、一応ね!」と付けられたナースキャップも、しっかり頭に装着されている。 ………ねぇ、どうして? どうして俺だけナース服なの…? 今日は歌番組のハロウィン特集の回だ。 ツアーを大成功に収めたCROWNと、ありがたい事に八月に出したデビュー曲が未だトップテンに入ってる俺達ETOILEが、今日はセットで呼ばれている。 事務所の先輩後輩であるCROWNとETOILEのメンバー五人が、三組に分かれて曲目を披露する、まさにハロウィン特別企画なんだそう。 出演が決まった先月末時点から、それぞれが持ち歌ではない曲を番組の作家さんから指定されて、合間合間に練習に励んできた。 さっき見てきたのは、聖南とケイタさんの収録風景。 この時はまだ俺は私服のままだった。 局が大々的に売り出す予定の映画が医療系をモチーフにしたものらしいから、宣伝と仮装を兼ねて白衣を着ての録りだって事は聞いてたし、特に変に思ったりはしなかった。 聖南のドクターコート姿がやけに似合ってて見惚れちゃったけど、俺も一時間後には本番だからぼんやりしてられない。 なぜなら、俺だけ一人なんだ。 聖南とケイタさん、アキラさんと恭也、この二組が出来上がってて、そうなると俺は自然と一人での歌唱って事になるよね…。 作家さんから渡された曲が、やたらとエッチな歌詞が目立つアップテンポナンバーだったから、これを一人で歌うの!?って最初はドキドキだったけど……振り付きだから覚えてしまえば意外と気にならなくなった。 聖南にも、どの曲歌うんだ?って聞かれてしまったから、本番まで秘密!って言って誤魔化しておいた。 この曲はちょっと、事前に聖南に伝えておくのはマズイ気がしたからだ。 聖南の事だから、歌詞がエッチ過ぎだから選曲を変えてもらう、とか平気で言い出しそうだもん。 収録を見学して控え室に戻った直後、スタイリストさん達に囲まれた俺は十五分後…この姿になっていた。 ────で、冒頭に戻る。 CROWNとETOILEは別々の控え室だけど、もう何となく分かってしまった。 ナース服なの、たぶん俺だけだ。 どうしてみんな俺を女装させたがるの?って膨れてたら、恭也がずっと背中を擦ってくれた。 似合ってるよ、そりゃ。 みんなはね。 背が高いしカッコ良くて凛としてるから、本物のお医者さんみたいだし。 もし俺が着るとしたら研修医用の白衣とかかなって思ったのに、ナース服とはやられた。 予想も付かなかった。 「じゃあ、俺、収録行ってくるね」 「…………うん。 がんばって…」 「あ…セナさんには、葉璃の衣装の事、ギリギリまで秘密だからね。 ここで、ジッとしてて」 「……………うん…」 何だか楽しげに控え室を出て行った恭也は、今日も緊張なんてしてなさそうだった。 俺は一人でカメラの前に立たなきゃいけないし、このナース服のミニスカート加減には慣れないし、いつもより何倍も緊張してるっていうのに……。 「………聖南さん…なんて言うかなぁ…」 また女装させられてんの、ってニヤニヤしそう…。 「せめてこのスカート…長くなんないのかな」 あまりに短いから、スカートの裾を引っ張ってみるけどそんな事で長くなるわけない。 はぁ、と溜め息を吐いて大人しく着席した俺は、手のひらに「聖南好き」って書いてみる。 ちょっと前に聖南に言われてから、ちゃんと「好き」を足してみてるけど、これもあんまり効果がない。 むしろ逆効果だ。 聖南って文字を書くだけで会いたくなるのに、好きって書いちゃうと胸がぎゅーって苦しくなる。 出番前の緊張と聖南への想いが一緒くたに襲ってくるから、このおまじないは今までの「人」文字よりもっと効果が望めない。 「ハルさーん、スタンバイ行きましょ〜」 「…………ヒッ…!」 も、もう恭也とアキラさんの録り終わったの…!? まだ三十分も経ってないよ! ……スタッフさん達を待たせるわけにはいかないから、俺はゆっくり立ち上がって短いスカートを鏡越しに直す。 「聖南さんが見に来てませんように……!」 控え室を出ながらそう願ってみたけど、………聖南はスタジオに陣取ってるだろうな。 確実に。

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