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★【BL萌えシチュをやってみた(聖南×葉璃)】②
聖南は気付いている。
気付いていて、あえて葉璃に言わせようとしている。
終電間近の真っ暗闇をバックに、妖しい色気を纏う立派な社会人然とした聖南が葉璃に想いを告げるよう強要し、さらに身を寄せて体を密着させた。
二重の綺麗な薄茶色の瞳が真っ直ぐに葉璃を射る。 スーツをビシッと着こなし、細いシルバーのフレーム眼鏡を掛けた聖南は、いつも見ていた彼の颯爽とした雰囲気から少々かけ離れていた。
急かすように何度も「ん?」と催促された葉璃の呼吸が、あまりの出来事により止まってしまう寸前だった。
「………………」
「……言葉より先に瞳で伝えてくんのは卑怯だろ」
「え、っ? ……んっ」
聖南の瞳を見詰めていた葉璃は、本当に告白しても良いのか迷っていただけだ。
そんな矢先に唇が温かくなった。
キスしているのだと脳が理解するまで、いくらも時間が掛かった。 告白するよりも勇気が要る事を、まさに今、してしまっている。
ちゅ、と触れ合うだけで離れていった聖南は、戸惑うばかりの葉璃を見てフッと笑い、今度はおでこ同士をくっつけてピュアな心を弄ぶ。
「ちゃんと言わねぇと、明日から何やらかしても庇ってやんねぇからな」
「……日向、先輩……」
「倉田、もう一度だけチャンスやる」
今にも心臓が壊れてしまいそうな葉璃に、まるで揶揄っているようには見えない真摯な表情を向ける聖南の想いもまた、とろとろと伝わってきそうだ。
見ているだけで良かったはずなのに、ラストチャンスに心が揺れ動く。
みんなの憧れの的に、自分なんかが言っていい言葉なのかどうか……悩む間も聖南の視線が葉璃を逃さない。
少しでも動くと鼻先がぶつかる。
絶え間ない緊張感と胸の鼓動で、全身が固まった。
このチャンスを逃すとあとがないような気がして、パニックを起こしかけている頭の中を整理する前に、キスの感触と吐息が残る小ぶりな唇がゆっくりと動く。
「……日向先輩、……好きです。 ……すみません……」
「謝ったからやり直し」
「えぇっ!? も、もう、勘弁してください……」
「分かったよ。 意地悪言われてすぐ泣くのやめろ」
泣き虫なの可愛いけど、と至近距離で囁かれた葉璃は、ぽっと頬を染めて聖南の手のひらに触れると、そっと瞳を閉じる。
胸に秘めていた気持ちを伝えられたはいいが、それが彼に届いたのか、受け入れられたのか、結局のところ分からなかった。
はぐらかされてはいないが、返事を貰っていない。
泣き虫が可愛いと言う "日向先輩" は、大層な意地悪嗜好らしい事が判明した。
それもまた魅力だと照れつつ、涙を目尻に溜めた葉璃は惚れた弱味にまんまと付け込まれたのであった。
…
…
…
ベッドへと移動した葉璃は、ジャケットを脱ぐ聖南を黙って見詰めていた。
その熱い視線に気付いた聖南が首を傾げてベッドに上がってくる。
「どしたの」
「……いや……聖南さんのイメプレにしては、キュンキュン設定だったなぁと」
「あぁ、今のだろ?」
「はい」
恭也との危ないBLシチュエーションを再現した番組を食い入るように観ていた聖南が、非常に分かりやすくヤキモチを焼いたのは知っている。
二人でいい事してずるい!と文句を言いながら、わずか三分で先程の設定を考え付き、スーツに着替えた聖南はてっきり勢いのまま襲ってくるのかと思った。
まったくもって聖南らしくない、甘酸っぱい告白シーンだったなと葉璃は少しだけ安堵していた。
「恭也と葉璃は恋人同士の設定だったじゃん。 俺は葉璃と、これから愛を育みますよ〜なイメプレしたかったんだよ。 視聴者がキュンキュンするような」
「……誰も見てませんけど」
「俺が満足したからいいの! ドキドキしたろ?」
「えっ……はい、それはもう、すごく……」
「恭也と演技した時より?」
「………………」
まさかそうくるとは思わなかった。
すぐに獣化してセックスへとなだれ込むのだろうと決め付けた葉璃が、なんと裏をかかれたのである。
演技とはいえ、ドキドキしないはずがない。
けれど葉璃は、恭也との撮影の際も間違いなくドキドキしていた。
本音を言うと五分五分だ。
親友である恭也の雄の部分を垣間見たのと同時に、二台のカメラと十人ほどのスタッフに囲まれての撮影は、緊張も相まってもしかすると今より……かもしれない。
「おい、俺との方がドキドキしたよな?」
「あっ……も、もちろんです!」
嘘が吐けない葉璃はうっかり黙り込んでしまい、目の色が変わった聖南からジロッと睨まれて肩を竦めた。
戯れのようなイチャイチャイメプレと、視聴者へ向けた撮影ではどう考えても答えは決まっているのだが、それを正直に言うと聖南は絶対に拗ねる。
葉璃はそう考えて即答したつもりが、眼光鋭い聖南には通用しなかった。
「葉璃……嘘吐くならもっとうまく吐けよ……」
「いえそんな……っ、嘘ではないです! 眼鏡を掛けた聖南さんのスーツ姿を拝めて、それだけで俺はドキドキして……っ」
「悲しいよ、葉璃ちゃん……俺より恭也との方がドキドキしたなんて……」
「そうは言ってないですよ! あれは撮影だったし周りに人もいっぱい居て……!」
「へぇーそれが本音か」
「あっ……!」
喋れば喋るほど墓穴を掘る葉璃は、いつもの如くポロポロと嘘を白状し、自爆した。
舌なめずりをした聖南はひどく楽しげな表情を浮かべ、問答無用で葉璃のスーツを脱がしにかかる。
「近々『セナ×ハル』で撮ってもらう事にするわ」
「えぇ!? 聖南さん、それは職権乱用!」
「なんとでも。 俺は無理が通っちゃうからな。 なんたって「CROWNのセナ」だから」
「っっ! CROWNのセナは日向先輩より意地悪だったんですね!?」
「───イメプレ再開だ、倉田」
「わぁぁんっっ」
その夜、 "日向先輩" と "CROWNのセナ" 、両方から攻められる事となった葉璃は、彼に隠し事は出来ないと改めて痛感した。
妖艶なスーツ姿でのイメプレに興奮したのは聖南だけでなく、初々しい告白を体験した葉璃もドキドキが再燃し、本音を覆させられる事になる。
★【BL萌えシチュをやってみた(聖南×葉璃)】終
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