52 / 83
第52話
「お茶、淹れますね。
先に食べててください」
「ありがとうございます」
ガサガサとコンビニ袋からおにぎりを出す古志に背中を向け、小さな冷蔵庫の上でお茶汲みをしているとふと手元が陰った。
「光輝さん」
ふわふわと甘いにおいが自分を包む。
自分には不似合いな人工のにおい。
だけど、好きなにおい。
「え…あ……あ、の…」
「ね、光輝さんと俺って付き合ってんだよね?」
「つき…っ」
カッと身体中が熱くなる。
付き合ってる…
付き合って…
古志くんと、僕なんかが…
「あ…の……、あ…」
上手く言葉が出ない。
するりと腹を撫でる若い手に意を決する。
何度も頭を縦に振って意思を伝えた。
「じゃあ、もう呼んでるけど光輝さんって呼んで良い?」
「は、はい…」
「光輝さん」
「はい、」
「俺の事はなんて呼んでくれるんですか」
「古志くん…」
茶葉のパックを手にしたまま小さな声で名前を呼ぶと、背後の空気が変わった。
あ…、古志くんは嬉しい時こうなるんだ…
「薫って呼んでくれないんですか?」
「……はず、かし…です」
楽しそうに笑う古志は相川の耳の裏に吸い付いた。
「っ!!」
「少しずつで良いから俺に慣れてください」
「…が、がんばります」
「がんばって。
楽しみにしてます」
ともだちにシェアしよう!