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第59話

相川が実家に帰ったと古志に教えてくれたのは長岡だったらしい。 日頃の感謝も込めて土産を買ってきたが口に合うだろうか。 若い人はどんな物を喜ぶか分からず古志に聴くと、干物で良いんじゃないと軽くあしらわれた。 一応、名所をイメージした金箔入りのカステラにしたがよくよく考えれば、1人でこのサイズを食べきれるだろうか。 バタークリームサンドの方が良かったか。 そもそも甘い物は食べるのだろうか。 考えれば考える程頭がぐるぐるしてくる。 昼休みのチャイムが鳴り響き少しした頃、土産物店の名前が印刷された紙袋を手に人文科準備室と顔を出した。 「な、長岡、せんせ…」 「相川先生。 どうかされましたか?」 昼食を食べる手を止めて廊下に出てきてくれた長岡先生は優しく口角を上げた。 「食事中に、すみません…。 あの、甘い物は…お好きでしょうか」 「えぇ。 好きですよ」 「あの…古志くんの事、ありがとうございました。 実家に帰る事を、その……連絡…忘れてしまってて…」 「あぁ、気にしないでください。 連絡忘れる事ありますよね」 深く掘り下げてこない事にほっとしつつ、嘘を吐いている事に罪悪感がすごい。 こんな良い人に嘘を吐くなんて…。 すみません…すみません…と心の中で何度も謝った。 本当にすみません…。 「これ…あの、お土産、です。 お口に合うと、良いんですが……」 「そんな僕はなにもしてませんよ。 気を使わなくて良いですから」 「いえ…、古志くんは生物部の生徒です……あの、口に合わなければ……あの……」 「では、お言葉に甘えていただきます。 ありがとうございます」 次の言葉を言わせない様に長岡は頭を下げながら受け取った。 何を言うのか検討が付いたのだろう。 気が利いて頭が良くて、人をきちんとみてて優しい人だ。 「金箔の入ったカステラですか。 金箔はじめて食べますよ」 漸く肩の荷が抜けふにゃっとだらしない笑顔を浮かべる事が出来た。

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