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第60話
「あら、こんにちは」
相川の部屋へ行こうと階段に足をかけた古志の背中に嗄れた声が降ってきた。
自分祖母より年齢の若そうな、だけどしあわせそうな笑顔を称えた女性に古志は女の子が好きそうな笑顔で挨拶を返す。
「こんにちは」
「あら、やだ、ごめんなさい。
どちら様かしら。
最近物覚えが悪くて…」
「相川先生が顧問をされている生物部の古志と言います。
ハムスターのお世話に来ました」
「まぁまぁ、光輝くんの教え子さん?
ちょっと待ってて、丁度頂いたお茶菓子があるの。
2人で食べて」
老女は優しい人柄の滲み出る笑顔が待っててねと1階奥へと引っ込んでいった。
相川の周りは優しそうな人が集まっている。
類は友を呼ぶではないが穏やかな人の近くにはそういう人が集まりやすのは確かだ。
ふと空を見上げた。
雲1つなく良く晴れた、夏のある日。
夏休みのたった1日。
特別な日じゃないのに、この部屋に向かう足取りは軽かった。
いくら夕方だと言っても真夏のこんな時間に外に出るなんて面倒な筈なのに。
汗をかいて気持ち悪い筈なのに。
「はい、これお菓子。
光輝くんと仲良く食べてね」
「ありがとうございます。
こんなに沢山いただいて良いんですか?」
「えぇ。
あまり歳をとると食べれないのよ」
なら遠慮なく、と感謝の言葉にして階段を上がった。
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