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監察日誌:悲劇の行方6

***  急いで署に戻り、水野くんから受け取ったUSBを早速パソコンで確認してみた。その画面を見ながら腕を組み、深いため息をつくしかない。山上らしいといえば、そうなんだが――  いろいろ考えていると、扉をノックする音。 「水野です。お忙しいところ、すみません……」  意外な人物の来訪に、慌てて扉を開けた。 「病院から直接、ここに来たのか?」 「はい……関さんにお願いがあって」 「とりあえず、中に入ってくれ」  何を言いたいか、顔を見れば一目瞭然。さて、どうしたものか――山上が撃たれた以上、同じような危険が伴うこの仕事を、水野くんと一緒にやっていけるだろうか?  俺がゆっくり扉を閉め、向きを変えるとそこには床に跪き、頭を下げている水野くんの姿が……。  断りにくい状況にくっと息を飲み、そのまま見下ろす俺に、澄み切った大きな声で口を開く。 「山上先輩が残したこのヤマ、俺に引き継がせては、もらえないでしょうか? 足を引っ張らないように、やってみせますから。お願いしますっ!」 「水野くん……」 「危険なことは、百も承知しています。だけどこのまま、何もせずに指をくわえてるだけなんて、どうしても許せなくって……」 「頭を上げてくれないか。君が頼みこまなくても俺から、頼まなきゃならなかったからな」 「えっ!?」  勢いよく顔を上げた水野くんの腕を取り立ち上がらせると、デスクに置かれたパソコンの画面を見せた。 「君が届けてくれた、USBの中身だ」 「これって、一体なんですか? さっぱり、ワケが分からないんですけど」  眉根を寄せて、難しい顔をする水野くん。遊び心があり過ぎる、山上のなぞなぞみたいな暗号。日頃、ヤツと会話していれば、分かりそうなものばかりだった。 「このピンクのウサギくん宅は、水野くん家なんだ」 「何で俺が、ピンクのウサギくん……」 「山上から見た、水野くんの第一印象らしい。アイツのセンスは、さっぱり理解できない」  俺が可笑しそうに笑うと、小首を傾げながら次の項目を、細長い指でなぞった。 「じゃあ、これは誰なんですか? 恋敵の助手席の下って?」 「――俺、だ」 「関さんと山上先輩って、恋敵だったんですか?」 「一昔前の話だ」  いきなりの指摘に困って嘘をつくと、じっと顔を見てから、 「何か、壮絶な闘いになりそうですね。どっちもイケメンだし、相手の女の人が羨ましいかも」 「相手は、水野くんだよ」  あまりにも無邪気に言うので、本当のことを言ってみる。一瞬だけポカンとした顔をして、 「おっ、俺ですか!?////」  ブワッと頬を赤らめて、目をパチパチする姿が可愛らしい。 「なぁんて冗談だ。予想通りの表情、ありがとう」 「は? ちょっと、関さん酷い。本気にしちゃった俺ってば、すごく格好悪い……」 「うん。……本気にしていいよ」 「関さん、いい加減に」 「悪い……。何か冗談でも言ってないと、泣きだしてしまいそうなんだ。俺のせいで、山上が死んだようなものだから」  肩を落として俯くと、俺の袖口を掴んできた水野くん。 「それを言うなら、俺だって責任があります。俺を庇ったがために、山上先輩は亡くなってしまったんですから」 「水野くん……」 「終わったことを、とやかく言っても始まりません。残されたこのヤマを、きちんと解決しなきゃ」  目を赤くさせながら笑う水野くんの姿に、胸の中が熱くなった。  山上――お前が言うように、水野くんは芯が強いな。 「一緒に解決出来るよう、約束してくれ」  俺の袖口を掴んでいる手を、両手で握りしめる。 「絶対に、ひとりで無理しないこと。出勤の送迎は俺がする」 「ええっ!? そんな関さんに送り迎えしてもらうなんて、恐れ多い……」 「単独行動が危険だから、言ってるだけだ。山上もそうしていただろう?」 「そういえば外に出たときは、常に一緒でした。そういう理由だったんだ」 「お互いがお互いを守るためだ。我慢してくれ」  俺が苦笑いしながら言うと、首をふるふると横に振って、 「我慢なんて、とんでもない。俺の方こそ、関さんに負担かけっぱなしにならないよう、とにかく頑張りますから」 「ああ……」 「だから山上先輩みたく、俺を庇ったりしないで下さいね。もし関さんに何かあったら、山上先輩に叱られちゃいますから」  両手を握りしめてる俺の手の上に、残った手を重ねた水野くん。 「俺は捨て駒だから……盾にでもして関さんは助かって、事件を絶対に解決して下さい!」  好きなヤツを捨て駒になんて、出来るワケがない。本当に、バカな男だな――  俺は握っていた手を離すと、水野くんの頭めがけて、パーで思いっきり叩いた。  バチン! 「あだっ!」 「山上が命を張って守った水野くんを、どうして俺が盾に出来ると思う? 俺にとっても君は、大事な人なんだからな」  背を丸めて頭を撫でている水野くんを、眉根を寄せて見上げる。呆れた勢いでちょっと強く、叩き過ぎただろうか。 「俺は山上と同じように、優しくしない。お互い助かるなら、ぶっ飛ばしたり蹴っ飛ばしたりと、手段は選ばないから覚えておくように!」 「関さん……」 「まずは山上があちこち隠した、メモリーを回収しなければ。俺は気が短いんだ、ボヤボヤしてくれるなよ」  口ではこう言ったが俺も山上と同じく、水野くんを命を張ってでも、絶対に守るだろう。  かけがえのない、大事な人なんだから――

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