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お菓子をくれないと逮捕する!?②

***  ハロウィン当日―― 「関さん、毎日遅くまで仕事頑張るよなぁ。過労死しなきゃいいけど」  本人を目の前にして、心配だって言えないのは。 『ふん! こんなことくらいで死んでたまるか。お前の目は節穴か!? 俺が軟弱じゃないことを、身をもって教えてやるよ雪雄』  とか何とか言ってきて、返り討ちに遭いそうだから。だけど恋人の体の心配くらいしても、バチは当たらないと思うんだ。  むぅと唸りながら、さっき着たばかりのメールを読んでみた。 『もうすぐ仕事が終わる。家で待ってろ』  簡潔すぎる、関さんからの一文。今日がハロウィンなのを覚えているから、家で待ってろなんて書いてくれたのかな? 「仮装はあの関さんだから、してこないのは分かってるけど、一緒にいられるのは嬉しすぎて困っちゃうかも」  いつもみたいに囲碁をやるのかな。準備をしておいた方が、スムーズに出来るよね。  隅っこに退けられている碁盤を手にしたとき、ピンポーンと家の中に音が響き渡った。思ったより、早いお出ましだな。 「はーい、ちょっと待ってくださいね!」  一刻も早く逢いたかったので碁盤をそのままに、玄関に向かって一直線。相手を確認せずに、扉を開け放ったら―― 「…………」 「ちょっ、関さん……どうしたの、その包帯。どこかケガでもしたの?」  上半身に巻かれている真っ白い包帯が目に留まり、思わず抱きついてしまった。 「ねぇ痛い? 何か大事件に巻き込まれちゃったの? 大丈夫、関さん」  包帯の上にコートを羽織っている姿は、痛々しくて堪らない。だけどおかしいな――関さん見た目は小柄だけど、腕っ節は強いはず。キックボクシングの経験者だった俺の元彼と対峙しても、臆することなく対応してくれた。ひとえに俺を守るために。  しかも何気に、アルコールのニオイが漂っている気がする。消毒のニオイじゃないよ、これは。  ふと顔を上げたら、唐突に奪われる唇。触れるだけのキスをして、柔らかく微笑んできた。 「Trick or Treat 雪雄。お菓子をくれなきゃお前を逮捕するが、どうする?」 「うぇっ!? いきなり、何それ?」 「何って、言ってたろ。仮装してほしいって……」  多分無理だろうなぁと思いながら、呟いたひとことだったのに―― 「関さん、俺のお願いを叶えてくれたの?」    嬉しさを噛みしめながら顔を上げると、うっすらと頬を染めた愛しい恋人と目が合った。 「一昔前の自分なら、絶対にこんなことはしなかっただろう。だけどお前の望みだったからな、叶えてやりたいと思って」 「来てくれただけでも嬉しいのに、仮装までしてくれちゃって。えっと、ミイラ男?」 「そのつもりだったがな。まさか、怪我人に間違えられるとは。仕事柄しょうがないだろうが、それだけ心配させているのかと改めて自覚した。こういう風に想われるのも、存外悪くない」  いつもより饒舌な関さん。お酒を呑んだら普段聞けないことを、スラスラ喋るものなのかな。 「珍しいね、お酒を呑んでウチに来るなんて」 「……こんなハズカシイ姿をするんだ。一杯くらい引っ掛けなきゃ、やってられん!」  ちょっとだけ唇を尖らせ、首に巻いていた包帯に手をかける。もともと緩く巻いていたのだろう、簡単に解けていった、それをいきなり―― 「ええっ!? 何するんだよ、関さんっ」 「もう、充分に堪能しただろ。それにお菓子を寄こせと言ってるのに、すぐにくれないお前には、イタズラの刑が決定だ」  目を覆うように、包帯をグルグル巻きにするなんて(汗) 「イヤだよ、こんなの! って言ってる傍から、どうして両手まで拘束するのさ」 「最初に忠告してただろう。お菓子をくれないと逮捕するって。手錠じゃないだけ、まだマシだと思え」  嬉しそうに俺の両腕を後ろ手に縛り、手荒にどこかへと引っ張って行く。 「わっ……見えないから怖いって。ねぇ解いてよ」 「危ないことはしない。大丈夫だから雪雄……ただ」  言いながらいきなり俺の身体を持ち上げ、ゆっくりとそこに下ろしてくれた。スプリングの利いたベッドの上―― 「ただ、なぁに?」  期待で声が掠れてしまう。どうしようもなく、身体の奥が疼いてしょうがないよ。  耳に聞こえてくる衣擦れの音。きっと関さんは、羽織っていたコートを脱いでいるに違いない。目が見えないからこそ他の部分を使って、情報収集しようとするんだな。いつもより、クリアに音が聞こえる。 「雪雄、口角を上げて嬉しそうじゃないか。さっきと大違い」 「だっていきなり包帯を巻きつけられたら、誰だって混乱するよ。それよりも、さっきの質問に答えて。ただ、のあとの言葉がすっごく知りたいな」 「ただ……俺にとってのお菓子であるお前を、美味しく戴きますと言うだけだ。見えなくても感じてほしい、愛されているってことを」  嬉しさを滲ませた声が、じぃんと耳の中に響き渡った。俺だけが聞くことを許されている、関さんの甘い声。  その後、奪うようなキスをされ、宣言通り愛してくれたんだけど。やっぱり腕を拘束されるのは、個人的に辛かったな。大好きな関さんを、ぎゅっと出来なかったから。  でもまぁ、たまにこういう愛され方も悪くないと思った、ハロウィンナイトなのでした。  めでたし めでたし  皆さんもステキなハロウィンを、お過ごしくださいね☆

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