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お菓子をくれないと逮捕する!?
関さんと伊東くんのハロウィンのお話を見つけたので掲載ます。はしゃぐ関さんが見たいとリクエストを戴いた関係で、一生懸命に頭を悩ませたお話だったりします。
***
――まったく、厄介な事を強請ってくれるな……
国勢調査を装った詐欺やら、マイナンバーの取得に関する詐欺やらサイバーテロなどなど。
世の中の情勢を巧みに使った犯罪が日々横行しているといるせいで、それに関連する問い合わせや犯罪の資料・その他諸々が目の前に積み上げられている状況だというのに、頭の中は困ったことに、全く別な事情で悩まされていた。
「犯罪が増える一方で、俺の悩みも比例しているとか笑うに笑えんな」
笑えんと言ってるのに苦笑してしまうのは、それを強請った相手が恋人だからだろう。
『ねぇ、関さん。今月末って仕事、どうなるか分からないよね?』
「月末は基本、忙しいが。何かあるのか?」
『ハロウィンだよ。うちのコンビにでも、フェアやってるでしょ? 何となく店内が、カボチャ色になってるじゃないか』
仕事帰りに寄った雪雄のいるコンビニ。ほらほらと指を差した場所には、カボチャの形をした飾りが施されていた。気がついていたが、わざわざ騒ぎ立てるものでもないだろうに。
「カボチャを作ってる農家が、喜んで飛びつきそうなネタだな」
メガネを押し上げ、雪雄の手にコインを載せる。
『ちょうど戴きました、ありがとうございます。って全く……そんなことを言われちゃうと、折角のイベントが楽しめないじゃないか』
「さっきも言ったが、月末は忙しい。約束は出来ないぞ」
『あーあ。関さんが仮装してるトコ、見たいのになぁ』
この時に溢した雪雄の一言が、ずっと心に引っかかってしまったのである。
「バレンタインの次はホワイトデー。七夕の次はハロウィンって、何でこんなに行事が次々とあるんだ?」
そもそもハロウィンって何だ? 仮装するって何の意味があるんだ?
目の前にうず高く積み上げられている仕事を無視して、ちゃっかり調べてみた。
「なになに? ハロウィン、あるいはハロウィーン(英 Halloween または Hallowe'en)とは毎年10月31日に行われる、古代ケルト人が起源と考えられている祭りのこと。もともとは秋の収穫を祝い、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事であったが、現代では特にアメリカで民間行事として定着し、祝祭本来の宗教的な意味合いはほとんどなくなっている、か。外国の祭りが、どうして日本に入ってきたのやら」
それに仮装するのは、子どもたちって記載されているじゃないか。どうして大人の俺が、仮装をしなければならないんだ雪雄?
深いため息をつきながら、メガネを押し上げ、先を読み進めてみると――
「おいおい、過去に大事件になっているって? お菓子をもらえなかった大人が暴徒化!? 一体日本は、どうなってしまったんだ?」
ずっと下の方に記載されたものに、事件と事故の両方が書かれていて、2014年のハロウィンでは渋谷に多数の仮装者が集まったせいで混乱状態となり、機動隊が出動して駅前の交差点などに、総勢約200人配置するなどの態勢で警戒にあたり、逮捕者も2名出るなど未明まで騒ぎが続いたらしい……
※この記事、マジものです(・∀・)
「ということは警視庁と連携をとって、何らかの活動をする課があるんだな。ご愁傷様な世の中だ」
こんなくだらないイベントひとつに、見事左右されなきゃならない仕事をしている俺たちって――そう思いかけて、ガックリと項垂れる。
「個人的に今現在、思う存分に左右されているじゃないか。俺自身が……」
仮装をしたら、きっと喜ぶのが目に浮かぶ。しかしながら、仕事の事情と個人的な事情(恥ずかしい等)があり、それが出来ないからって、雪雄が暴れるなんてことをしないと思うのだが。
「俺が想像出来ないような、ものすごいワガママを言ったりしたら、どうしよう?」
ごくたまになのだが、ぽんと投げつけられるワガママがあり、その要求を何とかするのに、四苦八苦させられるのである。しかも強請るというよりも、軽く言ってくれるせいで、逆に心に残ってしまって。
それは天然というか何というか。俺には到底真似が出来ないことだった。
参ったなと頭を抱えた瞬間、コンコンと軽快なノックの音と共に、元気な声が部屋の中に響いた。
「失礼します。関さぁん、困ってしまって。聞いてくださいよ!」
大きな紙袋を手にした水野くんが、困ったという表情を全然見せずに堂々と入って来て、デスクの前に佇んだ。
「何だ、朝っぱらか騒々しいな。見たら分かると思うんだが俺は今、すごく忙しいんだ。プライベートな相談に乗る暇はない」
「分かってますけど……でも仕事中じゃない関さんを探すほうが、俺にとっては難題ですって。お願いですから、俺の悩みを聞いてくださいよ!」
「だからって、仕事中にプライベートな話なんて」
「あ、大丈夫です。俺、今日は非番なんで♪」
「…………」
君は非番だろうが、俺は仕事中だと強く言いたかったのだが、水野君とやりあう時点で、時間の無駄と素早く判断。口を引き結んでやった。
「それでですね、ちょっと相談なんですけど。ハロウィンの仮装について」
俺が顔を激しく引きつらせているというのに、それをしっかりと無視して、書類が散乱しているデスクの上に、持ってきていた紙袋から次々と何かを出す。
「ハロウィンの仮装をするなら俺って、何が似合うかなって。関さんがするなら、雰囲気から想像すると、このドラキュラ伯爵なんてピッタリだと思うんですけど――」
俺の頭に勝手に黒いシルクハットを載せ、肩には漆黒のマントを覆い被せた。
「うわぁ……怒ってるからこそドラキュラ伯爵の冷酷な感じが、ひしひしと伝わってきますよ関さん」
怒っていると分かっているのに、どうしてそんな風に平気でいられるんだ?
「俺がその格好をしても、らしさが全然出ないんですよ。どうしたらいいかなぁ?」
「だったら顔を覆い隠せる、このカボチャの被り物を、頭から被ったらどうだ? 表情が見えないから、おちゃらけた様子が分からなくて、とてもいいと思うが」
シルクハットを外して水野君に手渡すと、デスクの上にあった存在感満点のカボチャを、手にとってやった。
――俺がコレを被ったら、間違いなく雪雄に大笑いされるな。
「えー、これは俺には、似合わないですって。可愛くないし」
自分が被ってる姿を想像し眉根を寄せたら、何故だか水野君が非難の声をあげた。
だったらどうして、コレを用意したんだ!?
「この中にあるもので俺にめっちゃ似合いそうなの、関さん見繕ってくださいよぅ。適度に目立って翼が、おおって声をあげちゃいそうなヤツ」
「悪いが、この中にはないな」
「え~っ!? 展示されてたものを、ほとんど買ってきたのに」
「君に似合うのは、ピンクのウサギの耳だ」
死んだ山上が水野君を見た時に表した言葉を思い出し、ぽろっと溢してやる。未だにその表現の意味が、理解出来ていないのだが――
「うへぇ……ピンクのウサギの耳、ですか?」
「ああ。だいぶ前になるが、雪雄が言ってたんだ。『ウサギの耳、めっちゃ似合いそう。可愛いんだろうなぁ』って笑っていたぞ」
同じような表現で雪雄がこのことを言っていたのを思い出し、額に手を当てながら教えてやる。俺の周りにいるヤツの感性は、目の前にいる水野君を含め、突拍子がないというか複雑というか、分かち合えそうにない。
「そっか。雪雄君がそんなことを言ってくれるのなら、大丈夫な気がしてきた」
途端に、ウキウキしだす水野君。雪雄の一言が、こんな場面で役に立つとは思ってもいなかった。
これでやっと解放されるだろうと深いため息をついて、デスクの上に置かれている仮装グッズに視線を移す。隅の方に置かれている、使い古されたといった感じの包帯を、何気なく手にした。
「あ、それはミイラ男の仮装に使うヤツですよ。細身の関さんがそれを巻いたら、ちょっとセクシーに見えるかもですね」
「セクシー、ねぇ……」
ドラキュラ伯爵も捨てがたいが、これはコレでありかもな――
「それ、あげますよ。関さん」
「え?」
「それ巻いてハロウィンの日、伊東くんの家に行ってあげてくださいって。絶対に喜びますから」
うししっと笑った水野君の笑みを半ば呆れて見ていたら、手早く散らかした衣装を片付け、逃げるように出て行く。
「お、おい……」
「どんな夜になったか教えてくださいね。さて、急いでピンクのウサギの耳を探さなきゃ!」
こうして俺は水野君からのトドメの後押しによって、仮装することが決定してしまったのである。
雪雄目線につづく――
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