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コンビニで――雪雄目線
最近珍しく、関さんが仕事帰りにコンビニに寄ってくれている。理由は分からないのだけれど――
カウンターで接客しながら、目の端に関さんの姿を映した。現在彼は、ドリンクコーナーの傍で、背の高いイケメンなお客様に職質をかけているらしい。
背中を向けているから表情が分からないけど、話しかけられたイケメンなお客様は、微笑みながら話をしていた。
そういえばあのお客様も最近、この時間に来店することが、かなり増えているかも――
横でレジを打っている、千秋に目をやった。
少し前に千秋が風邪で欠勤したとき、あのお客様に話しかけられ、休んでいることを告げたら血相を変えて、店を飛び出していった経緯がある。
イケメンなお客様と千秋は、顔見知りの関係を超えたモノ――もしかしたら恋人なのかもなと、想像してみたのだけれど。恋人だと断定出来ないのは、あのお客様の接客をしている千秋が、いつも通りだから。むしろ迷惑そうな顔して、早く帰ってほしそうな時すらあるし。
――もしかして、千秋のストーカー!?
なぁんて考えていたら突然、関さんがこっちを見た。どこか、嬉しさを滲ませた眼差しで。何故だか傍にいるイケメンなお客様も、同じような表情でこちらを見つめる。
――な、なんだろ。あそこ一帯だけ世界が違う!
二人のイケメンに見つめられ、頬が勝手に上気してしまった。あとで関さんに、何の話をしていたか聞いてみようっと。
***
仕事を終えて、いそいそ関さんの車に乗り込むと、くしゃくしゃっと頭を撫でて、
「今夜も頑張っていたな、お疲れ様。雪雄……」
メガネの奥の瞳を細めて見つめる視線に、嬉しくなってしまい、思わず抱きついてしまった。
「関さんもお疲れ様っ。頑張りすぎて、タバコ吸いすぎないでくださいよ」
スーツにしみこんでるタバコの香りに眉根を寄せたら、難しいお願いしてくれてもなと、苦笑いを浮かべる始末。
――む、逃げようとしているな?
「俺からのお願い、少しでもいいから叶えてくださいね。んもぅ!」
「分かった、一応善処するとしよう」
「それよか、イケメンに職質してたでしょ? 何かあったの?」
職質という言葉を使ったけど、ふたりして楽しげにカウンターにいる俺たちを、見ていたような気がした。
「ああ……イケメンの職業が個人的に、何であるかが知りたくて。彼、マジシャンだって」
「はあぁ?」
「幸雄の同僚だけの、マジシャンになりたいんだそうだ。結局その話をしたお陰で、煙に巻かれてしまったよ」
「げーっ、関さんに誤魔化しをかけちゃうとか、その人ヤバいんじゃ……」
千秋なんて、一溜まりもないんじゃなかろうか。まんまとイケメンの餌食になっちゃいそうだ。
「だろうな。相当あくどいことをしているに違いない。運よく彼が事件を起こして捕まったなら、是非とも取調べをしたいものだ」
イジワルそうな笑みを湛えて、エンジンをかける。慌ててシートベルトをし、話しかけようとした矢先に、タイヤを鳴らす勢いでアクセルを踏みしめた。
「ぅ、わあぁっ!?」
「幸雄の罪状は、イケメンに目が奪われたことだ。よって俺の家にて、しっかりおしおきをしてもらうから覚悟しろよ」
「ええっ!? いきなり何の話をしてるのさ?」
「俺の顔よりも、イケメンの方ばかり見ていた。3回くらい多く」
――なんだ、そりゃ?
「見てないって。見たとしても、千秋のことを考えてて――」
「いいわけはなしだ。帰ってから、じっくり反省してもらうから」
かくて関さんのお家で弁解したものの、嫉妬心に苛まれた彼の前では、まーったく無力に等しい言葉が並べられたようで。
腰が痛くなるまで、関さんに尽くしたのは言うまでもない――
めでたし めでたし……なのか?
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