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08.

(side. LEON) アレストが目を覚ましてから数年の 月日が経つ。 今彼は元気に、働いている。 平和な日常が俺らを包んでいた。 フォレストが帰って来ない事を、 アレストは時々心配した。 その度に胸が軋む音がした。 アレストとの結婚は取り止めた。 俺が頭を下げて、白紙にしたのだ。 町人も、俺の両親も、アレストの両親も 目を見開いてどうしてだ、と責め立てた。 理由は言えずにいた。 気持ちが離れたのか、と言われれば そうではない。 今でも愛おしいと思う。 けれどそれ以上に、逢いたい人間がいた。 俺はその人を探したかったのだ。 もう何処にもいないと知っていても、 俺はフォレストを、探したかった。 それが俺に出来る事だと思った。 アレスト自身、最初は悲しそうにしていたが 働くようになってからは 「今日はお客さんに褒められた!」と 嬉しそうに普通の身体である事を喜んでいる。 今では、まるで親友のように 俺とアレストは話をするようになった。 風の噂で、アレストに言い寄っている 男がいるとも聞いている。 昔ならば嫉妬や束縛に震え アレストを拘束しただろうけれど、 今は微笑ましくさえ思うのだ。 彼もまた、新しい、広い世界を自分の足で 進む事の喜びを知ったようで。 今俺とアレストの間にある「愛」は 友に対する愛へと変わっている。 俺の両親は、結婚しないのなら 陛下になれば、と提案したが 俺より出来の良い弟の方が国をまとめる力が あるだろう、と理由をつけて辞退した。 弟は「迷惑なんだけどー!」と言っていたが まぁ、なんとかするだろう。 時間は人を変える、というのは本当なのだろう。 あんなにもアレストを愛していた俺も、 泣き虫で弱気なアレストも、 町も、全て。 変わっていった。 俺はただ、ひたすらに 逢いたい人を探す毎日。 けれど彼がいる場所など分からない。 彼が好きな場所さえも。 時折俺は、老医者のところへ訪ね 悪魔について色々と聞いた。 けれど普通の人には見えない悪魔だ。 どんな姿で、どんな形かも分からない。 見えていたのはフォレストだけ。 ただ、町の外れにある森が住処、という事は 古代から伝えられている。 お伽話のようなものだと思っていた 古代文書を、今では信じ切っている。 だって、彼は。フォレストは、確かに 存在を消しアレストは生きているのだから。 「…ここか。」 初めて来た森は、静かで。 木々が揺れる音だけが穏やかに響く。 足を踏み入れ奥に進むほど その静けさは増していくようだった。 刹那、ざわざわと木々が強く揺れ、 まるで俺を拒むように強く音を立てた。 なんだ、と周囲を見渡していれば ふいに背後から声がした。 「やぁ、レオン王子。はじめまして」 「っ!?」 振り向けど、誰もいない。 けれど声は確かにする。 何処にいるんだと探せど姿はない。 「今日はこの森に何の用だい?」 「っ、誰だ!何処にいる!?」 「さぁ?誰だろうね。君がよーく知ってる んじゃないか?」 その声はケラケラと笑っている。 俺がよく知っている? 誰だ。この声を、俺は知っている? いや、知るはずない。 こんな冷たい声は。 考えていると、すっと目の前に 黒い影が落ち、人が現れた。 その人物の目はゆらゆらと赤を燃やしている。 ああ、コイツが。 「悪魔、か」 俺の言葉に、にんまりと笑ったその男に ぞわりと背中が凍った。

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