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「クスクスッ、カズマの座り方綺麗でしょ」
「う、ん。 すごい綺麗……」
「でしょ!? カズマの家は有名な茶道のご本家さんなんだよ!小さい頃から稽古とか凄い頑張っててね、
それでーー」
「俺のことはいいから」
ガンガン話し出す天パーの口をモゴッと手で閉じさせるスポーツマン。
「俺、矢野元 カズマ。こいつが喋ったからわかると思うけど、俺ん家茶道有名で……知ってるか?」
「うんっ、矢野元先生だっけ。よくお茶のTV出てるよね」
「そうそう、あれ親父な。よろしく。
で、こいつがーー」
「んーんー!」
自分で喋るー!!というように、ジタバタ矢野元の手を外そうとする天パー。
「はぁぁぁ…ほら」
「ぷはっ! はーもーー……
おれは丸雛 イロハ!どうぞよろしくね!」
「丸雛? まるひなって和菓子の?」
「うんうんそうだよー!おれの家和菓子で有名なんだよね、まるひな知ってる?」
「勿論知ってる!食べたことあるよっ!」
和菓子といえば〝まるひな〟と言われるほど、まるひなは有名な和菓子屋だ。
これが和菓子なのかと思う程綺麗で、食べるのが勿体くらいで。
(まるひな……懐かしいな)
父さんと母さんが出張のお土産とかに、よくまるひなの和菓子をハルに買ってきていた。
ハルは内緒で、それを俺にも分けてくれてて。
ひとつしか無い、小さな小さな和菓子を半分こするハルに「いいよいらないよ」って「これハルに買ってきてくれたんだし、俺ひとくちだけ貰えれば大丈夫だよ」って。
でも、
『僕が大丈夫じゃないの!僕がアキと半分こしたいんだからアキはだまってて!』
キッとそう言われてまた和菓子と格闘する、そんなハルが、言葉も出ないくらい本当に本当に嬉しくて…
(七夕の時の星がのった和菓子とかも、星まで丁寧に半分こしてたよな……)
『アキーこれ本当に半分?ねぇ見て見て』
ハルの懐かしい声が、俺の中にこだましてーー
「ーー? ーぇ、ねぇ、大丈夫?」
「ぁ、ごめんっ、大丈夫だよ」
いつの間にか、心配そうな丸雛に顔を覗かれていた。
「本当に? ならいいけど……」
「うんうん、心配かけちゃってごめんね? 何か時々ぼーっとしちゃうことがあるみたいで…
そっかぁ、茶道と和菓子の家だから2人は仲良しなの?」
「そうだね、茶道には茶菓子だし、茶菓子といえばうちだし! 勿論それもある、んだけど……」
「俺たちの家、隣同士なんだ」
「そーなの!それで幼馴染みみたいな?」
「そうなんだ! 本当に仲良しですごいや」
「え、凄いの!? 凄いって初めて言われた…
ってか、君の名前は?」
なんだか照れくさそうな丸雛に名前を訊かれる。
「そっか、自己紹介まだだったね、ごめん。
僕は小鳥遊ハル、よろしくね」
「小鳥遊? たかなしって……
ーーあのTAKANASHI!?」
びっくりした様子の丸雛と矢野元に「多分あってるよー」っと笑いながら返した。
TAKANASHIは有名な電機メーカーだ。
キッチン用品から掃除用品まで、日常で使様々な電化製品を作っている日本を代表する有名な企業。
知らない人はいないと思う、多分。
そんな企業。
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