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「はい、じゃぁやっていきまーす!本日のメニューを和食さんからどうぞっ!」
「イロハは頭に付いた粉落としてこい。和食は王道の肉じゃがをつくる」
「洋食は野菜のキッシュだよ」
「そしてデザートにはジンジャークッキーを焼きまーす!」
すごい!
メニューばっらばらだけど美味しそう!
早く食べたい!!
わーわーあいつらは盛り上がってる。
(肉じゃがはまだ分かる、食ったことある。だがキッシュ? 何だそれは聞いたこともねぇ。ジンジャークッキー? ジンジャーは生姜だし生姜のクッキーってことだよな、美味いのかそれ……?)
「あー佐古くん何か失礼なこと考えてるでしょーもー! ま、いいや始めよう!」
「同時進行でお互いに考えながらいこう、先ずはどうしようか」
「僕からやっていっていいかな? キッシュもクッキーもオーブン使うから先に焼いときたい」
「そうだね!じゃぁハル先生からお願いしまーす!」
「はいっ。先ずは冷蔵庫から野菜取ってきて? ほうれん草とトマトと茄子とズッキーニがいいかな。佐古くんお願い!カズマはフライパンにバターしいてて?」
「了解した」
「は? ずっきー、に…?」
(何だそれは)
「あ、佐古くんズッキーニ知らない? おれが教えたげるよ一緒にいこ!」
グイッと天パーに腕を取られた。
チャン、チャラララララ、ラッタッタ〜♪ と歌う天パーは、最高に機嫌が良いらしい。
ガチャッと冷蔵庫を開け、ポンッと俺の手に胡瓜のようなものを持たせる。
「はい!これがズッキーニだよ。胡瓜とちょっと似てるけど、よく見ると違うよねー!」
「……お前、笑わねぇのか?」
「え?何で?」
「…俺が、ズッキーニ知らねぇ、から……」
多分この野菜は普通にスーパーでも売られてるんだろう。
(俺胡瓜しか知らなかったし、笑われても当たり前だ)
「ぇ、何で? 笑うわけないじゃん」
ポツリと天パーがもらした。
「みんな初めは知らないんだよ? 初めから全部知ってたらロボットだそれ。佐古くんは、おれたちより知るタイミングが遅かっただけ。それだけじゃないの?」
(……っ)
「あははっ、もしかして笑われるかもって不安だったの? 佐古くん何か可愛いなーギャップある感じ!頭撫でたげるー!!」
「っ、や、やめろ!」
ぐしゃぐしゃぐしゃっとかき回されて思わず払いのける。
「んーふふふっ、何か佐古くんってハルに似てるかも」
「は?」
(俺が、あいつに?)
一体どこが……
「ハルもね、初めて会った時すごい警戒してて不安げで、でもそれを絶対言わなくて、勝手にどんどん考えこんじゃうから。
佐古くんも、今おれたちのこと警戒してるでしょ?勝手に悪い方に考えちゃうし。
あーもー2人ともちゃんと言ってー?おれたち絶対考えてるようなことやんないから!」
もー似た者同士なんだからー!
(あいつも、こんななのか……?)
何故だ、あいつはここの奴らと同じ人種のはず、なのに。
『確かに、僕は生まれた時から体が弱かった。毎日毎日ベッドの上にいて、外に出してはもらえなかった。
それでも、僕はいつも闘ってたんだ、自分自身と』
(まさか……)
毎日毎日ベッドの上にいて外に出してもらえなかったって……
ここに来るまで、そんなに外に出たことがなかった?
キッチンに立ってスポーツマンと調理してる後ろ姿を見る。
(ここが、あいつにとっての外?)
あいつは、学校の奴らの事とか以前に外の人にそんなに会った事が無い?
中学の頃初めてこの学校に来た時のことを思い出す。
(あいつは、中学の頃の俺?)
いや、それよりもっと酷いかもしれない。
あいつは自分の家以外に知り合いがいないのかもしれない。
そんな中で、あいつは
『僕は、佐古くんと〝友だち〟になりたい』
あいつ、はーー
「おーい佐古くんイロハ!野菜取るのまだー?さっさと切っちゃおうよ。早くおいでー?」
「あ、ごめーんハルすぐいく!ほら佐古くん後の野菜はわかる?冷蔵庫から取って取って!」
「あ、あぁ……」
呆然と、言われた野菜に手を伸ばす。
あいつは、病弱でもシャンと背筋を伸ばして
強く、ここに立っている。
それなのに俺は、
(俺は………)
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