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取った野菜を天パーに言われた通りに切っていって、それをフライパン前で待機してたスポーツマンがさっと炒める。
そしてあいつの手がパイ生地の上に炒めた野菜を綺麗に散らしていって、その上から天パーが卵とかいろいろ混ぜたものをボールから流し入れていって。
「わー、何かキッシュって野菜のケーキって感じだよね!」
「うんうん分かる、何かケーキ作ってるみたいだもんね」
ね!美味しそうー!後は焼くだけ?
うん、オーブンいれちゃうねー。
ピッとタイマーのかかる音がして、「僕のはひと段落。次どうぞ?」とあいつが声をかけた。
「じゃあ次は俺だな。イロハ冷蔵庫から使うもの取って来い」
「はーい! 佐古くんも野菜取りまた一緒に行く?」
「は、お前が頼まれただろうが、自分で行ってこい」
「えー!? もー佐古くん優しくなーい!」
ブツブツ文句を言いながら冷蔵庫へ向かう天パーを見ながら、俺は次何をすればいいのかとスポーツマンへ視線を向けると。
「な、何だよてめぇら」
じぃぃ……っと俺を見るあいつとスポーツマン。
「なーんか佐古くんとイロハ仲良くなるの早すぎだよね」
「あいつのフレンドリーさは天性のものだからな。俺も真似できない」
「っ、はぁ!? いつ俺が天パーと仲良くなっtーー」
「天パー言うなぁー!」
「「ほら、仲良し」」
「だから何処がだよ!」
あははっ、と笑われて何故か恥ずかしい。
「まぁいいや。カズマ先生、僕らは何すればいいですか?」
「そうだな、先ずはーー」
そこからはテキパキと手順良く調理を済ませて、あっという間に肉じゃがが出来ていく。
(料理って、こんな簡単にできていくもんなんだな)
こんな外見だし、俺が料理とか絶対ぇねえわと思って今までやろうとした事もなかった。
外ではダチとコンビニやファミレスで食うし、作れなくても別に困らなかったし。
「よし、後は煮込むだけだな」
「3つ中2つが完成間近だね、早いなぁ」
「みんなの手際がいいからな。それに佐古の呑み込みが早い」
「あーそれ思った!佐古くん本当に料理初めてなの?嘘ついてない!?」
「……ここで嘘ついてどーすんだよ」
「佐古くんは真面目な人だからね。真面目な人って料理上手いよね」
「分量が大事だからな。大雑把な人がやると変に辛くなったり甘くなったりする」
「っ、お、俺は別に真面目じゃねぇし……
それに、こんな外見の俺には料理とか似合わねぇだろ」
(くそっ、恥ずかしい)
こんな俺がエプロンなんか着て料理してるとか、ダチにバレたら笑い者だ。
「そんなことないよ。外見は所詮外見。
佐古くんはとっても真面目な、優しい人」
それなのに、ふわりとあいつが笑う。
「今日だって、僕が一昨日『早く帰ってきて』って言ったからこんなに早く帰ってきてくれたんだよね? そんなちょっとの約束も、ちゃんと守ってくれる。
佐古くんは、〝いい人〟だよ」
真っ直ぐに俺を見て、強く、そう言われた。
(俺が、〝いい人〟?)
何で、そんなに自信持ってそう言い切れる。
俺が…どれだけ喧嘩してきたと思ってんだ?
ーーあの日、どれだけ母さんたちに暴言吐いて、家出てきたと思ってる。
俺は、こいつは
(何で、そんなに俺の内面を見る?)
チン!
「あ、キッシュできたみたい。取り出そっか」
「はーいおれする!」
わいわいと賑やかになった空間に、俺はまだ呆然としていて。
そんな俺を、スポーツマンが静かに見ていたことに気づかなかった。
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