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「じゃぁ、肉じゃがを煮込んでる間にジンジャークッキーを焼きまーす!」 イロハ先生の出番〜パチパチパチパチ!と自分で手を叩きながら冷蔵庫に向かっていく天パー。 「実は!もう事前に生地を寝かせておいたのですー! だからみんなは自由にくり抜いたり形つくったりするだけだよ!」 ほら!おれ型抜きいっぱい持ってきた! 生地を広げてテーブルに置いて、がばぁっ!と出された型から好きなのを選んだり、自分たちで自由に形をつくったりしていった。 (俺は、何が、したいんだろう……) こいつらと料理をして、こいつらの輪の中に入っていて。 それが心地よいと…料理が楽しいと思ってる自分がいる。 (何でだ?) 外のダチとは別の、心地よさを感じる。 あいつらのは余計な詮索せずに誰でも受け入れてワイワイ楽しむ、そんな心地よさだ。 こいつらのは? 詮索はしてこない。だが外面じゃなく内面を見られてるような感じがして、むず痒くて呆然としてしまう。 さっき会ったばかりの2人と最近出会っただけの同室者に、何で俺はこんなに心乱されてる? (っ、意味わかんね……) 「佐古、そんなにイヌつくってどうするんだ。そろそろ他の形にしたらどうだ?」 「っ、しまっ」 ぼーっと手を動かしてたら俺の周りはイヌだらけになってしまっていた。 「あーワンちゃんばっかり!もー佐古くん何してるの!? はい、佐古くんは型抜き没収でーす」 後は自分で形つくんなさい!と天パーに怒られ、しぶしぶ生地を手で千切る。 (あれ?) 何で俺は天パーの言うこと聞いてんだ? 外だったら、こんなこと言う奴とは真っ先に喧嘩だ。 それなのに、何で…俺…… 「素直になって、いいんじゃないか?」 「は……?」 いつの間にか、スポーツマンが俺の隣で星をくり抜いていた。 「俺は中学もお前と一緒だった。だが、お前のこと全然気づかなかった…知ろうともしなかった。だから、俺は今素直にお前のことが知りたいと思っている。 お前の外見も、内面も」 スイッと、スポーツマンの目がテーブルの反対側でくり抜きをする2人に向けられる。 「イロハだって俺と同じ気持ちだ。何も知らなかった、だから知りたい、素直に。 お前のことも、ハルのことも」 「は…?」 (あいつのこと、も?) 「ハルは、隠すのが上手くて下手だ。 体が弱くても懸命に我慢して俺たちに合わせようとする、きついのも言ってくれない。それは、自分の体以上に俺たちに負担をかけたくないからだ。負担をかけてしまえば俺たちは離れていってしまうと思われている」 「なっ、そんなの……」 絶対ぇあり得ねぇ! (は? 何で、俺) 「絶対にあり得ない、だろう? 俺たちも同じ気持ちだ。ハルは、今まで家からあまり出たことがなく俺たちが初めてできた友だちなんだと言っていた。これから始まる生活は、ハルにとっては何もかもが初めてだ。だが、この学校は特殊だ。 それにハルはTAKANASHIだ」 やはり、小鳥遊という名字はこいつらの世界じゃ凄いものなのらしい。 「俺たちは、ハルを守りたい。ハルの初めてを、支えてやりたいと思ってる。 ーーそして佐古、お前のことも」 「は、俺?」 (何で、) 「お前は、ハルがさっき言ったように〝いい奴〟だ。 ここの生徒は外見で判断し家柄で付き合う奴ばかりだ。だから、お前が学校で何言われようが俺たちが近くにいたい。 佐古はいい奴だって、証明してやりたい」 「な……」 顔が、赤くなるのがわかる。 「お、お前らさっき会っただけだろうがっ、何でそこまで俺を…っ」 「〝友だち〟になりたいからだよ、佐古」 「は……」 「俺は…俺たちは、お前と〝友だち〟になりたい。助け合えるような〝仲間〟になりたいと思ってる……それだけだ」 ガタッとスポーツマンが立ち上がる。 「ハルのこと、よく見てやってくれ。内面しっかり感じてほしい、もう分かってるみたいだがな」 素直になれよ。と言い残して、あいつらの方へ戻っていった。 (素直に、なる……) 「そろそろいいかな? 焼くからプレートに並べてー!」 ニコニコと楽しそうに言う天パー。 楽しそうに「はーい!」と返事をするあいつ。 さくさく並べていくスポーツマン。 『俺は…俺たちは、お前と〝友だち〟になりたい。助け合えるような〝仲間〟になりたいと思ってる。 ……それだけだ』 俺は 俺、は。

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