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sideアキ: 佐古との距離 1

プレートに生地を並べてクッキーをオーブンに入れた頃、丁度肉じゃががいい感じにできあがって。 「クッキー焼きあがるまで、先に食事済ませちゃお!」ということなった。 みんなで盛り付けて、テーブルに運んで。 4人で囲んだ料理はどれも本当に美味しくて。 「ハル、このキッシュ凄く美味しい!おれが今まで食べたやつの中で1番だよ!」 「野菜もいい具合にトロトロだな」 「本当に?よかったー、佐古くんは?」 「……うめぇ」 「良かったぁ…!」 佐古が素直に「美味い」と言ってくれた。 それだけで、今日は大成功だ。 「カズマの肉じゃがもいい感じに味が染みこんでて本当に美味しいよっ」 「普段より少し薄めに味付けしたからな。その分煮込んでみたんだ」 「そうだったんだ! 僕の為…だよね、有難う」 「いや。少ない調味料で普通と同じような味付けができることが分かった。 俺こそ有難う」 (うわぁ…カズマ優しいなぁ……) 嬉しい。 その優しさに感謝しながら佐古の方を向く。 「でも、佐古くんも一緒につくってくれたから美味しいんだよ? 自分でつくった料理って、何か美味しいよね」 「あ!それわかるー!なんでなんだろうね!」 「達成感みたいなものがあるんじゃないのか?」 「成る程ー」 そんな話をしているうちに、あっという間にお皿は空になった。 ガタッと佐古が立ち上がる。 (あ、部屋帰っちゃうかな) まだイロハのクッキーもあるし止めなきゃ。 って、 「え?」 「……なんだよ」 佐古が向かっていったのは、キッチンのシンク前。 「…お、お前ら料理教えてくれただろっ、だから片付けくらい…俺がやる……」 佐古は、真っ赤になりながらふいっとシンクの方に向き直った。 (さ、) 佐古が あの、佐古が 「デレtーー!!!!」 ((イロハ静かにっ!!)) もがっ!と俺とカズマで口を塞ぐ。 (まじかよ……佐古ぉ!) 今日、料理教室して本当に良かった。どうしよう、本当に嬉しい。 「…おい」 「っ、はぃ!」 「俺、今洗う人になってっから濯ぐ人……してくんねぇの?」 「!!」 (洗う人と濯ぐ人、覚えててくれたんだ!) 「やる!僕濯ぐ人するよっ!」 パタパタと小走りでシンクに駆け寄り、佐古の洗った食器を濯いでいく。 「ねぇねぇ、洗う人と濯ぐ人ってなに?」 食べ終わった食器をシンクまで運んでくれながら、イロハたちが訊いてきた。 「片付ける人たちのことだよ。食器を洗うのが〝洗う人〟、それを濯ぐのが〝濯ぐ人〟。 僕の家で言ってたんだ」 「へーそうなんだ!じゃぁハルは誰かと2で片付けしてたの?」 (ぁ、しまっ) 「っ、ぅん、そうだよっ」 「へー!お手伝いさんとかお母さんとか?」 (違う) 『はい!今日は僕が洗う人だからアキ濯ぐ人ね?』 『え、ハルこの前も洗う人やってなかったっけ?』 『いーの! 僕手があわあわになるのが好きだから、ね?お願いっ!』 『はぁぁ、もーしょうがないなぁ……』 『やった!アキ有難う!』 そうやってハルの手は毎回泡まみれになって、でもそれが楽しくて楽しくて。 それが、俺たちの遊びでもあって。 そんな……懐かしい思い出。 ーーだが、 ぎゅっと奥歯を噛み締めて、あははと笑ってみせる。 「ぅんっ、普段はお手伝いさんとやってたよ」 「そうなんだー!だからテキパキできるんだね!」 ねーねーおれたちも使おうカズマ! ん、別に構わないが。 やったー! わいわい2人の話す声が、遠くに聞こえる。 ……今、顔がシンクの方を向いてて良かった。 後ろでテーブルを綺麗にしてくれてるイロハたちに、こんな顔見られることは無い。 「………っ」 俺の居場所は無いと自分に言い聞かせたような、思い出を自分で否定してしまったような。 そんなことを自分で、言って。 (っ、ハル……っ) おれ、ちゃんといる…? どうしようもなく、ハルに会いたくなった。

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