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「初めまして、龍ヶ崎 レイヤさん」 真っ直ぐに、あいつを見つめる。 「この度は僕の処まで足を運んで頂き、大変ご足労おかけ致しました」 ーー嗚呼、長かった。 (元々こいつが目的で学園に来たのに、会うまでに随分時間かかっちゃったな) こいつの為に来て、その道中で友だちや信頼できる先生たちと出会って… (……回り道も悪くなかったな) ニコリと綺麗に微笑んで、優雅に一礼してみせた。 「僕の名前は小鳥遊 ハル。 貴方の婚約者です。 先日は僕の体調が優れず、両親だけの話し合いとなってしまい誠に申し訳ありませんでした」 「あぁ…? 今更もうおせぇんだよ。お前今の状況解ってんのkーー」 「しかしながらーーーー」 頭を上げて、再びニコリと笑いながら真っ直ぐに見つめる。 「僕は、貴方のことを婚約者だとは認めておりません」 ザワッ!! 周りのどよめきと、「何故!?あの龍ヶ崎様なのに…信じられない……!!」という視線が一気に突き刺さる。 「ほぉ… てめぇ、俺が〝龍ヶ崎〟と分かった上でそう言ってんのか……?」 「クスッ、勿論ですよ?」 (〝龍ヶ崎〟を脅し文句にしやがって…甘ったれんなよ) 周りはこんなに煩いのに、俺と龍ヶ崎の間だけはピィンっと一本の糸を張っているように静かだ。 「だってそうじゃありませんか? 僕たち此処で初めて顔を合わせたんですよ? とてもじゃないけど、これから生涯を共にする婚約者とは思えない」 「あぁ? んなもんこの世界じゃ普通だろ。大概本音は会社同士の提携だったりでの結婚だ。運命的な出会いで結婚する奴らなんざ、ここじゃ少ないだろ」 「ですか。へぇぇそうなんですね。 僕はパーティーにも参加した事が無くあまり家から出ることも無かったので、龍ヶ崎さんが仰る普通が分かりかねますねぇ」 クスクスとからかうと、元々苛々してた分更にあいつの顔が険しくなった。 「てめぇ……っ! この俺にそんな口の聞き方して良いのか!? あぁ!?!? 今回の婚約だって、龍ヶ崎と小鳥遊の提携が目的だろうが!!」 (違う) 表向きはそうであっても、 俺たち小鳥遊の裏の目的は。 (今のこいつと結婚しても、ハルは絶対幸せになれない) これじゃ、ハルだけじゃなく両親もみんな悲しむ結果になる。 ーーーーだから、 「僕は貴方の事をよく知らない。貴方も僕のことをよく知らない。 だから、そういうのは先ずこの学園でお互いのことをよく知ってからにしませんか?」 「っ、は………?」 「これから同じ学び舎で生活をするんです。もっとお互いに理解を深めて、互いに異論が無ければ〝婚約〟を致しましょう?」 「お前……っ、これは俺たちじゃなく親が…経営者同士が決めた事なんだぞっ……!? それに口を出すだと…? 何言ってんのか解ってんのkーー」 「それとも、龍ヶ崎は小鳥遊と連携を結ばなければいけないほど危うい状態なのでしょうか? ーーそこまで落ちぶれたのですか?」 「っ!? てっめぇ………っ!!」 クスッ、俺はね? 龍ヶ崎。 (認めないよ? のお前の事) そんな簡単に〝小鳥遊〟を。 ーーハルを手に入れられるとは、思うなよ。 「ーーーーいいだろう」 低い、低い声が。 知らないうちにシィ…ンと静まった食堂に響く。 「ハッ、この俺にそこまでの口の聞き方をした奴は初めてだ……いいだろう小鳥遊、上等だ。 ーーその話、乗ってやるよ」 「クスッ、有難うございます」 ふふふと微笑む俺に、龍ヶ崎がゆっくりと近づいてきた。 そして再びクイッと顎を掴まれて、顔を近づけられる。 「お前のこの顔を、俺の足元にひれ伏せさせんのが楽しみだなぁ、小鳥遊」 (ハッ、誰がお前なんざにひれ伏すかよ) やんわりとその腕を払い、同じように近くにある龍ヶ崎の龍ヶ崎の顎を掴んで、その耳元でクスリと小さく囁いた。 「因みに、今この場で初めてお話させていただきましたが ーー貴方、ですね」 (中身がまるで無いな、お前) 「っ、な!? お前ーー」 キーン、コーン、カーン、コーン……… 「嗚呼、そろそろ教室に戻る時間ですね。 それでは龍ヶ崎さん…いいえ、会長。 またお会いしましょう」 固まっている龍ヶ崎からスイッと離れる。 「イロハ、カズマっ、教室に帰ろー? ほら、行こう?」 「………はっ! ま、待ってハル!!」 「っ、ハル……おい!」 そのまま、颯爽と俺たちは静かな食堂を後にした。

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