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〝小鳥遊〟を、上手く学園に浸透させる。 今浴びせられてる好奇心のような、狙いを定めているような学園中の視線を、親衛隊を使って少しでも回避したい。 (毎日毎日これだと、きっとハルは倒れてしまう) そんなの嫌だ。 早期に、どうにかしたい。 その為には、先ずこの2人を突破しなければいけない。 (無理な事言っちゃってるのはわかる) でも でも、どうかお願い先輩、星野くん…… 「………、クスッ…全く…貴方というお人は……」 ポン、と頭に手が乗った。 「そんな不安そうな顔で見つめないでください小鳥遊様。 大丈夫ですよ」 「っ……」 サワリ、サワリと優しく撫でられる。 「ーーかしこまりました。 それでは、一度小鳥遊様の変更点2つを取り入れて動いてみましょう」 「!」 (ほ、本当に……?) 見上げると、「安心してください」と言うようにニコリと微笑まれた。 「そ、そんな…正気ですか月森先輩!? それじゃぁ僕らはーー」 「星野」 「っ、は、はぃ……」 「私たちは小鳥遊様の為に居るのです。小鳥遊様がそう望まれているのならば、そうするのが道理。違いますか?」 「っ! 仰る通り…です……」 「今回小鳥遊様から頂いた変更点はこれまで例に無い異例なものですので、正直どうなるかは私も見当がつきません。 しかし、主人(あるじ)がそれを望んでいるのです。私たちが後押しせずにはいられないでしょう」 ポン、と僕の頭を撫でている手と逆の手が星野くんの頭に乗る。 「何事も動いてみないと始まりません。先ずは、やってみましょう。そこでまた何かしらの問題点が出たら、その時にまた話し合いましょう。 よろしいですか? 星野」 「…っ、はぃ。わかりました、先輩……」 「ふふふ。 ーー小鳥遊様」 「はい」 「これから我々は貴方に従い、ルール変更を行って再度親衛隊の体制を整えます。 ですが、万が一何かしらのトラブルや事件が発生するようであれば、早急に元のルールへと変更を許可して頂いてよろしいでしょうか?」 「はい、勿論です。よろしくお願いします先輩」 「……クスッ、貴方の強い決意、確かに受け取らせて頂きました。それでは、貴方の仰った通りに動いてまいりますね」 (良かった…通った………) これまで例が無い変更らしいから、先輩にはかなり負担がかかってしまうだろうな…我儘言って申し訳ない。 「ぁ、あのっ、小鳥遊様!」 「? どうしたの星野くん」 「さ、先ほどは真っ向からご意見を否定してしまい、申し訳ありませんでした……!」 「ふふふ、いいよいいよー否定されるのは当たり前の意見だし。それに、反論してくれて凄く嬉しいよっ、流石副隊長さんだね。 これからも僕が何か変な事言ったら、すぐに教えてね?」 「っ、はぃ!有難うございます、小鳥遊様!」 ふふふ、お礼言われる事言ってないけどな。 「小鳥遊様」 「はい」 「これから私と星野で早急に隊の編成にかかります。幹部等の人選に関しては、私どもに任せていただいてよろしいですか?」 「はい、お願いします」 「承知しました。また、隊のメンバーごとにファイリングしたものも後日お届けに伺います、ご確認ください。純粋なメンバーを4分割したファイルが4冊、掛け持ちメンバーのファイルが1冊、私や星野・その他幹部の説明で1冊…計6冊程になりそうですが」 「はい!よろしくお願いします。寧ろ6冊も作らせちゃってごめんなさい。僕も何か手伝える事あったら……」 「いいえ小鳥遊様!僕たちが責任持ってやりますので、小鳥遊様はご自身のお体と学園の生活、それから生徒会を優先してください!!」 「クスッ、その通りですよ。このような雑務、私達にお任せください」 「…っ、有難う、ございます……」 (有難いな) 俺の我儘で仕事量がかなり増えてしまったのに、嫌な顔1つせず笑ってくれて。 本当に (〝俺〟に協力してくれて有難う。2人とも) 「……さて、せっかくの紅茶が冷めてしまいましたね。もう一度入れ直してきましょうか」 「いいえ、凄くいい香りなのでこのまま頂いてもいいですか?」 「ふふ、勿論ですよ小鳥遊様」 それからは、紅茶と茶菓子をご馳走になりながら何気ない会話が始まった。 (先輩も星野くんも、信じていい人たちだな) ハルのことをこんなにも真剣に考えてくれている。 この人たちがハルの親衛隊で良かった…… 「ーー月森先輩。星野くん」 「? 何でしょうか」 「2人には、僕のことを小鳥遊じゃなく〝ハル〟って呼んで欲しいんです。 駄目でしょうか……?」 「可能であればそうお呼びしたいのですが……よろしいでしょうか?」 「! 勿論ですっ!」 「クスッ、それでは親衛隊では私と星野のみ、小鳥遊様の事を〝ハル様〟とお呼びいたしましょう。 許可頂き有難うございます」 この2人はイロハたち同様、ハルに凄く関わる人物になると思う。 だから、2人には〝小鳥遊〟でなく〝ハル〟を。 ーー〝俺〟じゃなく〝ハル〟を、覚えていて欲しい。 「私のことは、変わらず〝月森〟とお呼びください。月森一族は皆、主人からは名字で呼ばれるのです」 「わかりました、月森先輩。 星野くんは下の名前でいい?」 「ふわぁっ!ぇ、ぇと!ぁの!ぼ、僕のお名前…呼んで下さるんですか……?」 「勿論だよ!タイラって呼んでもいい?」 「!! 有難うございます、小鳥遊さmーー」 デコピンッ! 「こらっ、タイラ違うでしょー僕のことはハルって呼ぶの。わかった? ほらタイラ、呼んでみて?」 「ぅ、ぁぁ、ぁ、あぅぅ……」 みるみる赤くなる顔、涙目になる目。 (あー可愛い本当) 「ふふふ。ほら、そんな顔で見つめられても逃がさないよ? タイラ、言ってみて」 「っ、うぅぅ……先輩っ」 「クスクス、私に助けを求めても無駄ですよ? ほら、ハル様がお望みです。呼んであげなさい星野」 「ひうぅ…ぁの、ぇと…ぇと…!」 結局、星野くんが顔を真っ赤っかにしながらしどろもどろに〝ハル様〟と呼んでくれたのは、寮の消灯時間ギリギリのことでしたとさ、まる。 [親衛隊編]-end-

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