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「………あ?」
「聞こえなかったんですか? 貴方は人間ですかと聞いたんです」
ポツリ、ポツリ…と静かに問いかけられる。
顔を見るが、髪に隠れて表情が見えない。
(何言ってんだこいつ)
「たりめぇだろうが。人間じゃなかったらなんに見えんだよ」
「当たり前ですか。 僕には貴方が同じ種族とは思えませんね」
「あぁ?
…………っ!」
ギラリ、と髪の毛の間からあいつの瞳が覗いた。
意志の強い、ただただ冷たい色をした瞳。
「今の貴方は、ただの動物だ。人間じゃない」
「なっ」
「人間なら会話で物事を理解する、教える。
ーーこの口は、何の為にあるんですか?」
ピト…と押さえつけていない方の手の指で、俺の唇に触れられる。
「力で、権力で何かを押さえつけるのは弱者のやることだ。そんな脳を使わない動物的な考え、理解出来ないし理解しようとも思わない」
瞬きをせず、ただただ睨んでくる冷たい瞳。
感情のない人間のような、静かな声。
「………っ」
(体が、動かねぇ……)
俺は、こんな非力なやつの瞳ひとつで固まってしまう程、弱かったのか?
この俺がだぞ?
なんで、
(あり、得ねぇ………)
口も、唇をあいつの人差し指に抑えられて声が出せない。
フラリ…とそのまま上半身だけ起き上がられる
やっと見えたあいつの顔には表情は無く、綺麗な人形のようだった。
「僭越ながら、これが貴方の…龍ヶ崎のやり方ですか? 言い返せなかったら手が出るのですか?嗚呼、まるで子供のようだ、龍ヶ崎の名が聞いて呆れる。
僕はこんなのと婚約しているのか……
ーー恥ずかしい」
(ーーーー、な……)
キーンコーンカーンコーン……
「………手、離してください」
「……」
呆然と、言われるがままに力を緩めると、あいつはスルリと俺と机の間から抜け出す。
「任された書類、まだ期限に猶予がありますのでまたやります。
ーーでは」
はだけたシャツの前を掴みながら、パタンとあいつは出て行った。
シィー…ン……と、まるで何事も無かったように静まり返る生徒会室。
呆然と、あいつを押さえつけていた手を見つめる。
(俺は、何をやってんだ………)
何であいつに何もしなかった?
何であいつの言われるがままに手を離した?
唇に押さえつけてられた人差し指だって、簡単に振りほどけたはず。
なのに
『今の貴方は、ただの動物だ。人間じゃない』
『龍ヶ崎の名が聞いて呆れる』
『僕はこんなのと婚約しているのか……
ーー恥ずかしい』
「っ、くそ………っ!!」
何で、苛々しているのか
何に、苛々しているのか
もう、何もわからない。
ただ、俺はこれまで生きた中で1番の屈辱を味わったような
……そんな気分に、なった。
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