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「…………」 「……ハッ、ひでぇ顔」 「なっ」 「なに目ぇ丸くして俺の事見てんだよ」 「う、うぅぅ……!」 「クククッ」 シィ…ンと静かになった部屋に、以前2人で業務をしていた時のような笑い声が響く。 「………会長」 「あぁ? 」 「ありがとうございます」 「は? お前に礼を言われることなんざやってねぇ。丁度あいつらに会ったからな。俺は俺の言いたい事を言ったまでだ」 (人を育てるってのも、案外楽しいかもしれねぇなぁ) 負けたくないと宣言したあいつらを、これからどう育ててやろうか。 今までの変化なく過ぎていた日常が、こいつと出会ってからどんどん変わっていく。 退屈な方向にではなく、もっと別の方向へ。 (嗚呼、悪くねぇな) 初めてをたくさん味わうのも、悪い気分じゃない。 「ってかお前、今回の件なんも関係ねぇのに勝手に頭下げてんじゃねぇよ。てめぇにはプライドってもんはねぇのか?」 「ぅ、だっ、だって…僕が少しでも動いてましになればと思って……」 「はぁぁぁ…ったく……」 (どんだけ他人優先なんだ) 「お前は、もっと自分のこと考えやがれ」 「っ、え……?」 「あぁ? んだよ」 「ぁ、い、いぇ…ありがとう、ございます……」 (? なんか変なこと言ったか俺) そんなビックリした顔されても…… (ってか、) 「おい」 「は、はいっ」 「あの時の言葉、撤回しろ」 「……え?」 「は? 忘れた訳じゃねぇだろ。あの時俺に言った言葉だ」 〝こんなのが僕の婚約者なのか。 ーー恥ずかしい。〟 正直、これまでの人生において一番の屈辱を味わった感覚だった気がする。 しかも、まだその言われたダメージが残っていて。 (くそ……) 「俺も、もうお前にはあんな事はしない。だから、てめぇももう撤回しろ」 「…………」 「……? おい聞いてんのか?」 (なに狐につままれたみたいにポカーンと口開けてんだ) 「………っ、ふふふっ」 「な、」 「くくっ、あはははははっ、ふふっ」 「は? っ、てめっ」 (俺が折角真剣に話してんのに笑うのかよ!) 「ふっ、ふふふっ、はぁ…すいませんっ」 ひとしきり笑って、小鳥遊は「うーん…そうだなぁ」と考え始めた。 「……会長」 「あ?」 「この学園の噴水は、いくつあるかご存知ですか?」 「あぁ? んなの10個だろ」 生徒会室の資料にもそう書いてある。 「残念、ハズレです」 ふふふ、と可笑しそうに笑いながら あいつに……優しく微笑まれた。 「ーーーーっ」 (何だ、この感覚は) 屈辱とかのマイナスな感情ではなく、もっと別の感覚。 心臓がキュッと掴まれるような、そんな感じ。 「うーん、そうですね……今度、一緒に噴水探しの探検に行きましょうか」 「………は?」 「ふふっ。 撤回もなにも、僕はもうそんな事思ってないから大丈夫ですよ」 〝大丈夫だから安心しろ〟というように目を向けられて、更に心臓が早く動く。 (っ、何だこれは) 自分で自分がわからない。 体の温度が自然と上がって、じわりじわりとむずがゆくなってしまうような、不思議な感覚。 (これは、一体……) 「さっ! 副会長たちも頑張って業務してるでしょうし、僕らもとりかかりましょうかっ!」 「っ、ぁ、あぁ」 「ふふふ。 あ、そうだった。会長、僕もう今やる分の書類終わっちゃったんですよね。何か手伝う事ないですか?」 「あぁそうだな、じゃぁこの書類とーー」 一気に仕事モードに入って、目の前の業務に集中する。 この件以降、あいつが俺のことを〝会長サマ〟と呼ぶ事は無くなった。 そして、俺がさっき感じた謎の感覚の名前を知るのは……もう少し後の出来事。

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