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「そんなこんなで、今ですねぇ……」
(やると決めたらあっという間だった)
あれからハル様に挨拶へ行って許可を貰って。
ルール変更について話し合って。
お茶会の計画や幹部の選出等を行って……
(ルールの変更には驚いたな)
〝掛け持ちOK〟の親衛隊など、聞いた事がない。
掛け持ちとなると他の隊もいい顔をしない為、初めは各隊の隊長達に許可を取るのにとても苦労した。
だが、1つの隊が小鳥遊親衛隊との掛け持ちを許可した事により、それは大きく動いていって。
結局、他の隊は掛け持ちを推奨していないが「小鳥遊親衛隊とだけなら、100歩譲って許可する」という親衛隊が増えていった。
(恐らく、私が月森である点とハル様が小鳥遊である点がそうさせているのだろう)
あの一度も姿を見せなかった小鳥遊のひとり息子だ。
皆コネが欲しいだろうし、ハル様とお話ししてみたいという思いが何処かしらにあるだろう。
そのお陰で、ハル様の親衛隊は驚くほどに人気が高い。
掛け持ちOKが正式に発表されてから他の方の隊に入っている生徒も入隊していて。
その事もあってか、親衛隊特有の隊同士の小競り合い等が一切起きていない。
更に、驚いた事に今まで「親衛隊は敷地が高そう・色々大変そう」と避けていた生徒の層が「そんな軽い気持ちでいいなら入ってみようかな」と入隊しているのだ。
お茶会の抽選への運試しだけの為に入っている生徒さえいる。
いつしか、小鳥遊親衛隊に入っていない人は全校生徒でごく僅か…一握りほどになっていた。
(隊が出来てからまだ1ヶ月程しか経っていたいのに、もうほぼ全ての生徒が入隊している…これは、流石というべきか……)
〝小鳥遊〟という龍ヶ崎と並ぶほど有名な名字はあっという間に学園に浸透していって、今ではもう昔からいた方々と同じようなレベルになっている。
お茶会も頻繁に行われているので、コネが欲しいと一方的に囲われることも無くなった。
(ここまでを見越して、ハル様はルールの変更を提案したのだろうか)
だとしたら、ハル様の〝計画性のセンス〟には凄まじいものがある。
入学して早々、親衛隊を利用して自身の過ごしやすい環境へと作り変えている。
(こちら側が上手く利用されている感覚だな。やはり、この方は面白い)
『小鳥遊様に、お礼を言わせてください』
先日私の元へ来た会長・副会長・会計・書記の親衛隊隊長たちを思い出す。
ハル様が生徒会入りをしてから、業務をサボっていた3人がしっかり仕事をするようになったらしい。
そして会長も、少し雰囲気が柔らかいものへと変わったそうだ。
『今、凄く楽しそうなんです。あんなに楽しそうな副会長様、久しぶりに見ました』
『会計様もなんです!』
『書記様もです。今はちょっとだけ笑ってくれるんです』
『会長様も、生徒会室へ行くのが楽しみみたいでして……』
『そうですか、それは良かったですね。引き続き私たちが親衛隊隊長として主人を支えて行きましょうね』
『『『『はいっ!』』』』
(クスッ、やはり私の目に狂いは無かったな)
ハル様には、〝人の心を動かす力〟がある。
だから会長たちも動いたのだろう、丸雛や矢野元・佐古たちも、櫻さんや梅谷先生も。
そして、全校生徒や私自身も。
〝圧倒的な計画性のセンス〟と〝人の心を動かす力〟
この2つは、これから会社を継ぐに当たって最も必要とされているスキルだ。
それを、齢15の外に慣れていない少年が既に兼ね備えているとは……
「ーーやはり、貴方は面白いです」
これからもハル様がどう周りの人を、この学園を…そして大人になられてから小鳥遊の会社を変えていくのかが、とても楽しみだ。
その為の手伝いなら、努力は厭わない。
私の持ち合わせている力全てをもって、支えていきたいと思う。
そして、私は貴方の変えていく世界を側で見てみたい。
「ふふっ、しかし……」
(もう少しだけ、懐いてくれないだろうか……)
ハル様は、深くまで仲良くなろうとすればパッと離れていってしまって。
ある一定の距離感を常に保っている。
丸雛や矢野元たちにもそう。
彼らは〝友だち〟だからなのか私よりは近しい位置にいるものの、それでもその間には気づくか気づかないかレベルの微妙な距離感が保たれている様な気がする。
これも彼の計算…なのか?
一体何の為の距離感なのだろう?
まだ、慣れてない外という事もあって人を信用しきれていないのか……?
どっちにしろ、こう…なんだか野良猫みたいだ。
じぃぃっと観察して、一定の距離感を保ちつつ近づきすぎたら直ぐに離れていって。
(うぅん、もっと懐いていただきたいな……)
今の懸命に計算しているハル様にも可愛らしいものがあるが、近しい存在の人間には気を使わずに思いっきり甘えて自分を見せていただきたいと思う。
全てに気を張っていたら倒れてしまいそうだ。ただでさえお体が弱いのに。
まぁまだ出会ったばかりという事もあるだろうし、時間が解決してくれるか……?
「さてどうするか……引き続き、我々も要観察ですね」
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