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その噂は、本当だ。 (ふん、月森からすればこの様な事すぐに調べがつく) ただ、一度も屋敷から出たことの無いの事だけは、どうしても情報が手に入らなかった。 まぁ、一度も出たことが無いのだから当たり前なのだが。 (小鳥遊には叔父さんがいる、けど……) 流石は月森、内部の事は徹底して守っている だから情報が全く無い。 身内だろうが、月森は決して自分の会社の情報を他人へ漏らすことはない。 幼い頃からそう教育されている。 どんな方、なのだろうか。 みんなより早く、一足先に一目見ておきたい。 ーーそれは…ただただ純粋に、興味が湧いただけ。 彼が入寮する日を調べ、その前日に寮へ帰り彼の到着を待って。 2階の階段に隠れながら初めて見た小鳥遊の子は、寮のロビーにある大きなシャンデリアにポカーンと口を開けていた。 (何だあれは…シャンデリアを見たことないのか……?) 櫻さんもクスクス笑って対応している。 恥ずかしそうにワタワタしたり、切なそうにギュッと顔を歪めたり。 (表情がコロコロ変わる方なのだな……) 寮監という謂わば寮の使用人の様な存在の人に、目をキラキラさせながら何度も頭を下げて「有難うございますっ」と言っている姿に あぁ、彼は本当に外の世界に慣れていないのだなと実感した。 それから、何となく小鳥遊が気になってちょくちょく観察するようになって…… 小鳥遊は入寮して直ぐに、初等部の頃からずっと2人でいた丸雛と矢野元の間へいとも簡単に入り込み、 そして同室の孤立していた佐古をも一緒にその輪の中へ引っ張り込んだ。 (……凄いスピードだ) 彼の人柄がそうさせるのだろうか? 純粋な目と、病弱な儚い体と、幼さが残る綺麗な顔つきと、楽しそうな表情と…… もっと、もっと観察したい。 恐らくこの時から既に、知らず知らず私は彼に囚われていたのだと思う。 決定打は、食堂でのあの事件。 彼は龍ヶ崎レイヤの婚約者だった。 あの龍ヶ崎の性格だ。 きっと小鳥遊も龍ヶ崎に逆らう事なく、慎ましく斜め後ろを歩いていくような…そんな関係になるのだろうと思っていた。 だがーー 『僕は、貴方を婚約者とは認めておりません』 『そんなに急いで小鳥遊と提携を結ばなければいけない程、龍ヶ崎は落ちぶれたのですか?』 (…………な……っ) 自ら龍ヶ崎の腕を振りほどき、凛と立つ姿。 みんなが震え上がっているあの場面で、たったひとり龍ヶ崎と対等に話をしている、小さな強い存在に。 あの場にいた全生徒は勿論、 私までもが、魅了された。 (ーー嗚呼、〝このお方〟だ) ドクンッ、と心臓が強く鳴って カチリと自分の中にピースがはまっていく。 (このお方に、仕えてみたい) この方がこれからどう周りを変えていくのかを、側で見てみたい。 それと同じくらいに、初めてが多くあるこの方を支えたいと思う。 ーーそれは…ただただ純粋に、興味が湧いただけ。 でも、私にはそれで十分。 (嗚呼、見つけた) この方に、私はお仕えしたい。 (………さて、やるべき事があるな) 彼らが出て行ってから一気にうるさくなった食堂。 そのあちこちで「小鳥遊様の親衛隊に入りたい!」「作ろうよ!」という声が上がっている。 (あぁ全く……影響力がありすぎだ……) ふふふと苦笑して席を立つ。 (意気込んでいる所悪いが、あのお方の親衛隊隊長になるのは、ーーこの私だ) ようやく、私は月森としての第一歩を踏み出した。

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