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sideミナト: 小鳥遊ハル様について 1
「ーーと、言うわけなのですが……」
「クスッ、いいじゃないですか。せっかくの機会ですし勉強会に参加してきなさい、タイラ」
「……! 有難うございますっ、月森先輩!」
(わざわざ報告しに来なくてもいいのに)
それにハル様からのお誘いなのだから、「NOと言え」という指示を出す筈が無い。
きっと、親衛隊の中で自分だけが参加するのが後ろめたかったのだろうな。
普通だったら誰もが自分だけの秘密にして参加するだろうに。
(本当、律儀な子だ)
副隊長に選んで良かったと、つくづく思う。
「タイラ」
「?」
「来年は、ハル様と同じクラスになれるといいですね」
「……! はぃっ!!」
「それでは失礼しますっ」と元気よく出て行く背中を見送った。
私が小鳥遊ハル様の親衛隊隊長に自ら立候補したのは、
単に彼へ強い〝興味〟が湧いたからだ。
幼い頃から〝月森〟という名字のお陰で沢山の人が寄って来た。
『ミ、ミナトさまっ』
『……さま? それは私の事ですか?』
『はぃっ。ぁ…ぁの、ぼくたち、貴方の親衛隊を作りたくて……っ!』
『私に親衛隊?』
(何を馬鹿なことを言ってるんだ)
『私は〝慕われる側〟ではなく〝慕う側〟の人間です。そんな私に親衛隊など… 貴方たち〝月森〟の言葉の意味が理解できていますか?』
『そ、それではぼくの親衛隊隊長になってくださいっ』
『ぁ、ずるいっ!ミナト様っ、僕のにっ!』
『………』
こんなのが、日常茶飯事で。
(私が、この方々の隊長を務める…? つまらないな……)
中学2年の時、あの〝龍ヶ崎〟から直属にスカウトが来た。
『てめぇが〝月森〟か。 お前、俺の親衛隊隊長になって俺の隊をまとめやがれ』
『………』
龍ヶ崎レイヤはとにかく天才だ。
顔もいいし成績も優秀で、何より生徒会に入っている。
そんな、皆が喉から手が出るほど欲しい龍ヶ崎との繋がり。
ーーだが、
『お断りいたします』
『っ、な……っ!』
純粋につまらないなと思った。
こんな将来を約束された人を支えても、何のやりがいも価値も見出せない。
それに、龍ヶ崎もただただ私が月森だから声をかけたんだろうと思う。
所詮は、皆〝月森〟が欲しいだけだ。
主人と親衛隊隊長という関係が続いてそのまま現在も主人の秘書をしている月森が多いから、みんな私を自分の親衛隊隊長にさせたがる。
でも、そんな名前だけが欲しいだけの奴らにくれてやる程私たち月森は甘くはない。
(嗚呼、つまらない)
誰か、何処かに私がお仕えする主人はいないのか……
月森は有名企業には必ずと言っていいほど在籍しているが、それぞれの会社へは何かしらのご縁があって入社している。
例えば龍ヶ崎にいる月森。
彼は元々龍ヶ崎レイヤの父と同じ大学の先輩後輩で、そこから現在龍ヶ崎家の秘書をしている。
そんな感じで、それぞれに何かしらの縁があっているわけで。
(私には、まだその〝ご縁〟が無いのか……)
龍ヶ崎の月森の様に、大学生だろうか。
それともまるひなの月森の様に、幼少の頃既に出会っていたとか?
それとも、矢野元の月森の様に社会人になってから…?
『運に、身を任せなさいミナト。
初代から代々続く、月森家の教えじゃよ』
(大婆様はそう仰っていたけれど……)
私の運は、一体いつ巡ってくるのだろうか。
そのまま高校へ入学し、何の変化もなく2年生へ上がる時期。
ある一つの噂が飛び交った。
〝一度も顔を見せなかったあの小鳥遊家のひとり息子が、今年からこの学園に通うらしい〟
***
〝月森一族〟に関して分かりずらいかと思います。よろしければ【P86】の【初めまして、親衛隊隊長さん 2】を参考にしていただけますと幸いです。
『月森一族』に関しましては、後ほどしっかりまとめているページが出てまいります。
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