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(な……に………?)
フワリと、大きな何かに体を包まれた。
ハルじゃない。もっと別の、暖かい体温。
ハルより大きなものに、優しく……抱きしめられてる?
(これは、なに?)
「ぁ……っ、は…………」
「大丈夫だ、小鳥遊」
耳元で俺を落ち着かせるようにゆっくりと囁く、低い声。
大丈夫だというようによしよし背中をさする、大きい手。
ーー嗚呼、この…声は、この体温は
今、この部屋でこんな事が出来るのは
ーーーー〝会長〟しか、いない。
「っ!?」
「ぉ、おいっ」
いきなり腕の中で暴れ出したからか、焦ったような会長の声が聞こえる。
でも、こっちはそれどころじゃなくて。
(駄目だっ!)
会長に、抱きしめられてる?
一番バレちゃいけない人に、俺は何されてるんだ?
「っ、小鳥遊、落ち着け!」
「はなっ、離してくださぃ!」
雷の恐怖と、会長にバレる事の恐怖とで、もういっぱいいっぱいで。
パニックになりすぎて、ポロポロ涙が出てきた。
「ひっ、ぅぇぇ……はなして、くださ!」
(お願い、離して)
怖い。
ここでバレて、ハルと一緒にいられなくなる事が。
母さんと父さんから、呆れられる事が。
櫻さんや梅谷先生に、毎朝挨拶できなくなる事が。
イロハたちと一緒に、生活できなくなる事が。
会長と、ここで業務ができなくなる事が。
ーー雷と同じくらい、どうしようもなく……怖い。
(……嗚呼、俺)
知らず知らずに、学園での生活が俺にとってかけがえのないものになってたのか。
ハルの代わりとして、ただ役をこなすだけのつもりだったのに
こんなにも、大切なものになってたのか。
「ーーっ!」
(嫌だ)
ここで、終わりたくない。
もっともっと、この学園に……居たい。
タイムリミットが来る、そのギリギリの瞬間まで。
「だからっ、ぉねが……っ」
優しく伸ばされる手を、ガクガク震える体で必死に振りほどく。
心はズキリと痛むけど、でもバレるよりはずっとマシ。
真っ暗闇の中で、雷の音だけが響いてて
でも、それでも、1人でちゃんと耐えられるから
ーー耐えて、みせるから。
(だから、もう………っ)
「はなし ーーっ、んぅ!?」
「離して」と必死に言う俺の唇を、柔らかい何かが塞いだ。
「ん、ん…っ、ん……ん…ぅ………!」
(な、に…これ……っ)
息が、できない……!
ポンポンと思わず目の前にある体を叩くと、そのままゆっくりと唇から離れていく。
「っはぁ…鼻で息しろ。
ーーハル」
「っ、え……? ぁむっ!」
「えっ?」と口を開いた途端、今度はニュルリと生温かいものが口の中に入ってきた。
「ぁ…んふっ、んっ、んぁ…ぁ……ふっ!」
震える体を、今度は逃さないというようにきつく抱きしめられて。
頭を、力強い手に支えられて。
「ん、ふ……っ、ぁふっ…ふぅ…ん………」
クチュクチュと口内を激しくかき回される音が耳に響いて、ボーッとしてしまう。
(なに……これぇ………っ)
一体…何が、起こってるの?
なんで、俺
ーー会長と、キス…してるの……?
しばらくしてから、ようやく唇が離れていった。
「はぁっ……ぁ、っ…はぁ……はぁ………っ」
「っ、と」
カクンと体の力が抜けて、会長に支えられる。
「ちょっとは落ち着いたか?」
「っ、へ………?」
「運ぶぞ。
場所変えるから、ちょっと待ってろ」
そのまま、グイッと横抱きにされた。
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