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sideレイヤ: 腕の中の存在、感情の答え 1

停電になってパニックに陥ってるこいつを とにかく、どうにかして落ち着かせてやらないとと思った。 ガクガク震える体で必死に、抱きしめようとする俺の腕を振りほどいてきて。 震える声で、何度も拒絶されて。 ようやく徐々に暗闇に目が慣れて、見えたあいつの顔は ポロポロ涙を流しながら、 とても苦しそうに……切なそうに歪んでいて。 「ーーっ!」 気がついたら、その唇を俺の唇で塞いでいた。 そのまま、両腕で再びきつく小鳥遊を……ハルを、抱きしめる。 バタつく腕の中の存在がだんだんと収まってきてから唇を離すと、クテンと俺にもたれかかってきて。 それを優しく横抱きにし、近くにあるはずのドアノブを探した。 ガチャ (っと…暗れぇな……) 抱きかかえてる分、足で場所を探りつつ何とか進んでいく。 (ん、ここか) 「降ろすぞ」 「っ、ぇ」 ポスッとゆっくりその場所に寝かせてやった。 「っ」 「大丈夫だから」 ビクッと跳ねた体を、再び腕の中に閉じ込める。 そのまま、一緒にシーツの中へ潜り込んだ。 「ここ…は……」 「仮眠室だ。 防音だから、あっちの部屋より雷の音はマシだろ?」 生徒会室にある、仮眠室。 前の生徒会の意向なのか、この部屋の防音設備は完璧だ。 ベッドの中で抱きしめながら背中をトントンとゆっくり叩いていると、うつらうつらとあいつの瞼が落ちきた。 「雷が止むまでちょっと寝ろよ。大丈夫だから」 「…っ、でも………」 「ほら。俺もここにいるから、な?」 優しく語りかけると、トロンとした表情のまま、徐々に瞼が落ちていき やがて、スゥ…スゥ……と静かな寝息が聞こえてきた。 (……寝たか………) よくやくホッとひと息つき、改めて腕の中の存在を見る。 キュッと、控えめに俺のシャツを握る小さな手。 まだ不安なのか、眉間にはシワが寄っていた。 顔色は相変わらず悪く、体もまだ緊張しているように硬いままで。 「……っ」 少しでもその緊張が解れるようにと、こいつの眉間に優しくキスをする。 (ったく…ちょっとは頼りやがれ) 抱きかかえた時の軽すぎる体を思い出しながら、ギュッと抱きしめる腕をきつくした。 たかが雷ひとつで、こんなにも怯えて それでも必死に、俺から離れて1人で耐えようとするこいつに どうしようも無く悲しくなって…切なくなってイライラして…… ポツリ 「なぁ。 何でお前は、そう1人で抱えようとするんだ?」 そんなに俺じゃ頼りないか? それとも、まだ信用ならねぇ? どうしたら、 ーーどうしたら俺は、お前の心の中に 入っていける? 「っ、ははっ……」 (何考えてんだ、俺) あんなに外見だけで人を判断してた、この俺が。 でも、もう思考は止まらなくて。 こいつはずっと小鳥遊という鳥籠の中に住んでて、今回の学園が慣れない外なのだと会う前に両親から伝えられた。 ただの箱入り息子かと思ったが、実際会ってみたら180度違う奴だった。 真っ直ぐこの俺にぶつかってきて、一歩も譲らない瞳を持っていて。 いつもいつも、俺と同じ位置で対等に接してくれた。 予想を遥かに超えるその行動に俺自身初めは戸惑ったが 気がついたら、それがだんだんと心地よくなっていて。 こいつの隣は居心地が良いと、そう思うように…なっていて…… (ーー嗚呼、もう駄目だ) 俺は、 俺は今、どうしようもなく 必死になって1人で立とうとする、この腕の中の存在を 〝支えたい〟と、〝守りたい〟と ーー〝愛おしい〟と、思っている。

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