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sideレイヤ: 幸せな朝
「…………ん……」
パンの焼ける、いい匂いがする。
朝…か……?
俺の部屋じゃねぇな。
ここは………
(嗚呼、そうだ)
昨日業務中に、雷が鳴って
あいつを仮眠室に避難させて、そのまま寝ちまったのか。
「っ、」
バッと腕の中を見るが、そこにあいつはいない。
カーテンから朝日が漏れてるし、今日は天気が良さそうだ。
帰ったか……?
(………いや)
仮眠室のドアが薄く開いていて、その外からカチャカチャと音がする。
一体何やってんだ?
ガチャッ
「ぁ、おはようございますっ、会長」
「あぁ、おはよう……」
あいつがキッチンに立っていた。
「もう少しで朝食出来ますから、シャワーでも浴びてきたらどうですか?」
「まだ時間もあるし」と、背中越しに言ってくる。
(なーんか………)
ポソッ
「いいな、こういうの」
「ん? 何か言いましたっ?」
「ん、いや。 そうする」
「はい、タオルは準備してますから」
「おぅ」
(やっぱいいな、こういうの)
上がった頃には、ソファーのテーブルには美味しそうな料理がわぁっと並んでいた。
「……お前、何時に起きたんだ?」
「えぇっと…5時……だっかな。そっからシャワー浴びて、作り始めました」
今は7時過ぎ。
約1時間ちょいか……こいつ料理慣れてんなぁ。
「飲み物はどうしますか?」
「コーヒー」
「はい」
カチャリと手際よく準備してくれ、俺の隣に座る。
(そう言えば)
「お待たせしましたっ。それじゃぁいただきますしましょうkーー」
グイッ
「っ!?」
顎を持ってこっちに顔を向かせ、ふわりと両手でその頬を包んだ。
「ぁ、ぇっ、ぁの……っ」
「ーーん、顔色は問題ねぇな」
昨日あんなだったから心配したが、大丈夫そうだ。
「っ! も、もう大丈夫ですからっ!離してくださっ」
「ははっ、顔真っ赤だぞ」
「~~っ!」
バッ!と手の中から顔が逃げていく。
「ぁ、あの…」
そのまま、おずおずと話しかけられた。
「どうした」
「昨日は…すいませんでした……」
「あぁ、別にいい。誰だって苦手なもんはあるだろ」
「ぇ………?」
「……? 何だ?」
「だ、だって…業務の手、止めちゃったから……」
「もう日も無いのに、また時間をロスさせてしまってすいません」と、申し訳なさそうに俯かれる。
(あぁ成る程、そういう事か)
何度も言うようだが、俺は計画を乱されるのが嫌いだ。
不可抗力のものなら100歩譲って許すが、人間の心情や欲が入ったものは絶対に許す事が出来ない。
こいつもそれを分かってるらしい。
今回のは完全に心情が入ってのロスだ。
(それで申し訳なさ感じてんのか…… だが)
ポンッと目の前の頭に手を乗せる。
「別に、いい」
(お前は特別だ)
好きな奴からかけられる迷惑は、別に苦じゃない。
寧ろ、 ーー嬉しい。
「たかが数時間だろうが。直ぐに取り戻せる」
クスリと笑ってよしよし頭を撫でると、途端に顔がまたボワワッと真っ赤になった。
「ぷはっ、お前今日は忙しいな」
「なっ! う、うるさいですよっ!」
「ククククッ」
「も、もういいです!それより早く食べましましょ!ご飯冷めちゃいますっ」
「あぁ、そうだな」
(そうか、そう言えば昨日結局夜食ってねぇのか)
突然空腹が襲ってきて、ゴクリと喉がなる。
「「いただきます」」
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