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sideアキ: 机の位置と、至近距離からの告白と
(な、なーんか………)
なんて言うんだろう…こう……
「……会長、何見てるんですか」
「ん? いや」
(何回目だよこの会話)
箸が止まったと思ったら、じぃっと隣から視線を感じて。
じとぉ…っと見つめ返すとクスリと幸せそうに微笑まれる。
何だこれ。
こう、なんというか、こう……
(ふ、雰囲気が…甘い………)
ただの甘いじゃない。
すんごい甘い、もう本当に……ものすんごく。
「どうした。箸止まってるぞ」
「っ、」
「何だ、そんなに俺見つめて。食わして欲しいのか?」
「はぁっ!? だ、だれが……っ」
「ククッ、顔真っ赤」
「~~~~っ!」
くそっ!!
何だこれ!何で俺がからかわれないといけないんだ!?
会長楽しそうすぎて腹立つ……!
(っ、駄目だ。耐えろ俺…耐えるんだ……)
「コ、コホンッ。会長、お味はどうですか?」
「ん?そうだなぁ。薄味で、健康的な味付けだな」
「お口に合いますか?」
「当たり前だろ。ーー美味い」
ニヤリ、ととても幸せそうにゆっくり微笑まれた。
ーートクン
(は?)
え、トクン?
何だ今のは。
(何で今、心臓が鳴ったんだ?)
謎だ……珍しくど直球に感想を言ってくるからだろうか。
それも破壊力のある微笑み付きで。
(あぁそれだ、それが原因だなきっと。うんうん)
会長の謎のペースにのまれないように、無心で箸を動かした。
「「ご馳走様でした」」
結構な量を作ったつもりだったけど、あっという間になくなってしまった。
「お皿僕が洗いますから、引いてくれませんか?」
「ん」
そのまま、会長が持ってきてくれた食器をカチャカチャと手際よく洗っていく。
ガコ…ズ……ズズ………ガコンッ
(ん、何の音?)
「何してるんですか会長?」
「あぁ。お前の机、一番最初の位置に戻しとくぞ」
「っえ!? な、なんで……」
「遠すぎんだよ。書類のチェックとかで行き来すんの面倒だろうが。
それに、また昨日みたいに雷が鳴り始めたらどうする?」
「ぇ?」
「昨日だって、席が遠すぎて行くまで時間かかっただろうが。
お前はもう俺の近くにいろ。分かったな?」
「う、うぅぅ……っ」
確かに書類の行き来で席を立つのはだるかったけど、まぁ運動にはいいかなって思ってたから別にあの場所で不満は無かった…… でも、
(雷まで出されたら…何にも言えない……っ)
昨日のは、正直本当に怖かった。
屋敷で聞くより雷の音が近くて、おまけに停電もして。
また昨日みたいな日があるのだと思ったら、体がすくむ。
「っ、わかりました……」
「ん。 これからはもっと俺を頼れよ、ハル」
「ーーへっ?」
(い、今ハルって……)
「ん? あぁ、〝婚約者〟なんだから、別に名前で呼んだっていいだろ。これからはハルって呼ぶからな」
「ぁ、は、はい…」
「お前も、俺のことは会長じゃなくて〝レイヤ 〟って呼べ。 ほら、呼んでみろ」
「え?」
(〝レイヤ 〟……って………)
俺が…呼ぶのか?
いや、でも俺今ハルなんだし、俺が呼ばなきゃいけないのか。
でも…〝レイヤ〟って呼ぶの……な、何か緊張する…!!
(何でこんなに緊張してんだ!?)
たかが名前じゃん!
それもハルの婚約者の。
呼ばなきゃ、違和感のないようにサラッと……
でも、でもーー
グイッ
「っ!?」
「ハール。ほら、呼べよ」
いつの間にか近くへ来た会長にまた顎を取られて、至近距離でニヤリと笑われる。
「ぅ…ぁ……ぁの…っ」
(な、何だ…これ……)
あいつに持たれてる顎が、熱い。
至近距離から楽しそう見つめられ、じわじわと体が熱くなっていく。
(い、今までこんなこと無かった…のに……!)
何で…何でこんなに緊張してるんだ!?
「っ、ぷはっ。んな硬くなんなって」
「うぅ……」
「ほら、呼べよ? ハル」
「ぁ…、ぅう………っ」
会長は、言うまで逃がしてくれないらしい……
(そうだ、呼ぶ…呼ぶだけ!呼ぶだけ!!)
腹をくくれ俺!
一気に緊張が押し寄せて、思わずギュッと目をきつく瞑って。
あいつの顔を見ないように、伏し目がちにゆっくり目を開けて。
「ぁ、ーーっ、 レ…レイヤ………」
恥ずかしすぎて、つい尻すぼみになって小さく呼んでしまった。
(ち、ちゃんと聞こえたかな……?)
下へ向けていた目線を、すぐそこの顔の方へ向けると。
「っ、」
「…ははっ……いいな………」
そこには、嬉しそうに、幸せそうに微笑んで見つめてくる、会長の顔があった。
ーードクンッ、
(っ、え……)
あ、れ?
何で、こんな急に、心臓が早く動き出すんだ?
何で、こんなに顔が熱くなる?
何で、今俺こんなに
ーー泣きそうに、なってるんだ………?
グイッとまだ食器洗剤の泡が付いたままの手を引かれて、ポスッと抱きしめられる。
「ハル。ハル、
ーー好きだ」
「……ぇ」
「婚約者としてじゃない。
俺は、それ抜きにしてお前の事が好きだ」
「っ、」
ぶわぁぁっとさっきより更に体が熱くなるのがわかる。
でも、何故か、その分心はツキリと痛み始めて。
(なんだ…これ………?)
「ハル」
「っ!」
そうだ、今は取り敢えずこの状況を何とかしなきゃ。
(ん、待って。そもそも何でこんな事になってんだ!?)
昨日何があった!?
何でこんな一気に近づいてんの!?
チュッ
「っ!?」
「クッ、ハハッ、顔真っ赤」
唇に、触れるだけの優しいキス。
「今は、これくらいにしといてやるよ」
「っ、え……?」
「ーー早く、俺の気持ちに追いついて来い。ハル」
至近距離でまたニヤリと笑われ、会長はそのままソファーまで帰っていった。
(ぇ、え)
待って、待て待て。
今…一体何が起こった……?
名前呼んだら抱きしめられて、「好きだ」と言われて、キスされて。
(ぇ、なん……っ!)
「~~~~っ!!」
そのまま凄まじい速さで食器を全て洗い切って
クククッと楽しそうに笑う会長を背中に、俺は一目散に生徒会室を出て寮へ戻った。
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