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sideイロハ: 目標
「わぁっ、もうこんな時間!」
生徒会室でみんなとわいわいして。
気がついたら、もう夕方。
自己紹介が回りきった後、何と月森先輩がトランプを持って来てて(先輩何でそんなの持参してるの?月森ってここまで用意周到なの?神様か何かかな?)
皆んなでトランプをして遊んでたらもう日が落ちかけてる。
まだ壁はあるものの、確実に会長とおれたちの距離は近づいた…と思う……
ま、まだちょっと怖いけどねっ!
幼い頃から、ずっとパーティーで見てきた龍ヶ崎レイヤ。
おれたち子どもとじゃなくて、大人とばかり話してる大人びた子だった。
だから、おれたちもなかなか話しかけられなくて。
当然、誰かと一緒にいる処も見たことがない。
中学高校に入って〝会長〟という座に就き、コネが欲しいとこれまで以上に群がってくる生徒たちを〝気分が良い〟というように笑っているのを見て、「こんな人だったんだね」とカズマと話してた。
そんな会長がおれたちの大切な友だちであるハルの婚約者だと知って、すっごくすっごく…本当に心配してたんだ。
でも………
(会長、変わったなぁ)
刺々しさも無く、キツイ感じも無く、我儘な部分も無く。
角が取れたように少し丸くなっている。
何より
ハルを見つめる目が、とても優しくて。
見てるこっちが「ほわぁぁ」っとなっちゃいそうなくらいに、甘い。
(ハルって、やっぱり凄いや)
あんな俺様のやりたい放題だった会長をここまで変えるなんて。
食堂の時の宣戦布告から、こんなになっちゃうんだね。
なかなか甘えてくれないのか、ハルにどうにか振り向いてもらおうとしてる会長が何だか凄く面白くて。
(ふふっ、お似合いだよハル)
ハルももっと素直になれば良いのになぁ。
恥ずかしいのか…それとも、まだ気持ちに気付いていないのか……
(取り敢えず、今は追いかけられる側にいなよねっ)
ハルは会長を変える為に、きっとたくさん頑張ったと思うから。
だから、次は会長が頑張る番。
(ふふふ、せいぜい振り回されるがいいよ、会長)
でも、今の会長なら……ちょっとだけ応援してあげてもいいかな。
「あっという間だったねーイロハっ」
「うん!生徒会室初めて来たけど凄い綺麗な場所だし、本当良いところだね」
「キッチンなんかもあるし、色々できそうだな」
「もっと居たかったですー!!」
「ここで業務とか、絶対楽しいんだろうねぇ!いいなぁ」とわいわい盛り上がっている、と、
「なら、ここで業務できるようになればいいじゃねぇか」
「ぇ、会長……?」
「来年、お前らが生徒会に入ればいいだろ」
「っ、えぇ!?」
(せ、生徒会って……!)
生徒会に入る条件は、学力と行動力と、先生からの推薦が必要で、それが全て揃ってる人のみが入ることが出来る。
基本的には生徒会は3年生にならないと入る事が出来ない。
だから、会長やハルはすっごく稀な存在…なのに……
「来年、副会長たちが抜けたら3つ席が空く。そこに入ればいいだろ」
「ぇ、ぃやっ、でも3年生が……」
「俺の学年は、正直言って使える奴がいねぇ。いてもせいぜいこの月森くらいだ。だがこいつはハルの親衛隊だし、こういった公の場には出ねぇだろ」
「クスッ。確かに私は生徒会には入りませんね。影で支える事は出来ますが」
「だから、お前らが入ればいいだろ」
(ぇ、え……嘘)
会長からの、直々の誘い。
こんな事って……あっていいの?
「それにーー」
会長がスイッと、会長の提案にびっくりしてるハルを優しく見つめる。
「こいつも、お前らと一緒の方が楽しいだろ」
「ーーっ!」
(嗚呼、そうか)
あんな俺様会長が、どうしてこんなお茶会に何も言わず参加してるのか疑問だった。
でも、それは全部……ハルの為だったんだ。
ハルが喜ぶから、こうしておれたちと会話してトランプにも付き合って。
ハルが楽しんで業務ができるように、こうして来期の生徒会におれたちを誘ってくれてて。
それは全て、ハルの為なんだ。
「かい…ちょ……」
ハルが、呆然と会長を見て呟く。
そんなハルに、楽しそうにニヤリと笑う会長は、最高にカッコよくて。
(いいな)
おれも、こんな2人を、ずっと近くで見ていたいな。
2人を、支えたいな。
たった短時間だったけど、何故かこんな事を考えれてる。
不思議だ。
「ーーまぁ」
「?」
「俺の下に就いてもらうんじゃぁ、それなりに使える奴じゃねぇといけねぇけどなぁ」
クククッと笑って会長がおれたちを見つめる。
「来期の人員選出までまだ時間はある。それまでに何とかして生徒会に入れる人材になれよ」
「ーーっ、は、はぃっ!」
(わ、おれ凄い元気よく返事してる)
ほぼ無意識だったけど、気がついたら自然と返事してて。
(おれ……生徒会に、入りたい)
この空間で、この人たちに囲まれて一緒に業務をしたい。
そう、強く思ってる自分がいる。
ポンッと頭に手が乗ってきた。
「……? カズマ?」
「一緒に頑張るか? イロハ」
「っ、! うんっ!」
「ははっ、そうか。じゃぁ、俺も目指すよ」
優しくよしよしと撫でてくれて、凄く安心する。
(カズマと一緒なら、頑張れそう)
「ぼくも親衛隊の役職がありますので、残りの1席は佐古くんですねっ!」
「……俺か………?」
「佐古くんっ!一緒に頑張ろうよ!!」
「あー…んー………」
(あんまり乗り気じゃない? どうだろ?)
まぁ、これから気持ちも変わってくるかもしれないし、ゆっくり行こうっと。
「イロハが生徒会を目指すなら、問題は学力だな」
「うぅっ」
「ふふふっ、イロハ行動力は人一倍あるもんね。後は学力だねー。僕も手伝うよっ」
「ハ、ハル……」
(2人がいるなら、おれ努力する!!)
この前の期末テストも頑張ったおかげで凄くいい成績取れたし!
「んー、ハル様や矢野元君が手伝うのもいいですが、ここは龍ヶ崎も手伝うべきではないですか?」
それまでニコニコ話を聞いてた先輩が意見した。
「だって貴方の一言でやる気になってくれているのでしょう? 誘ったのは貴方なんですから、当然手伝うべきですよ」
「まぁ確かにそうか。俺は別にいいが、具体的にどうするんだ?」
(え、いいの!?)
こんなにあっさり了承してくれる会長にビックリだ。
「クスッ、そうですね……
それでは、みなさんがそれぞれご実家に帰られるまで〝宿題会〟を行いましょう」
「宿題会?」
「夏休みの宿題がたくさん出ているでしょう?私と龍ヶ崎で1年生の分、お教えいたしますよ」
「ハル様や佐古君には必要ないでしょうが、みなさんで一緒に行いましょう。その方が早く終わりますしご実家でもゆっくり過ごせるでしょう。一石二鳥です」と先輩がサクサク説明する。
「いかがでしょうか?」
「ぼ、僕はいいですけど……先輩、いいんですか?」
「勿論ですよハル様。私も楽しんでおりますので、大丈夫です」
「そ、そうですか……?(何を楽しんでいるんだろう?)
イロハ、カズマ、タイラ、佐古くん…どうする?」
「お、おれはっ、出来ればお願いしたい……です!」
「俺も、参加したい」
「みんなで勉強…!ぜひ参加させてくださいっ!」
「…………まぁ、付き合ってやる……」
「では、決定ということで」
「場所は生徒会室でよろしいですか?」と先輩が会長を見ると、「まぁこの時期は見られたらまずい書類なんかも特にねぇし、いいんじゃね」と了承してくれて。
こんな具合で
研修会は宿題会へと変更になり、
実家に帰るとまでの間、みんなで勉強漬けの日々が始まることとなったのだ。
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