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sideレイヤ: 宿題会と、ハルの事
「タイラ、ここはこの公式を使った方が簡単ですよ」
「ぁ、有難うございます先輩っ!」
「カズマっ、これ合ってる?」
「見せてみろ」
「佐古くんこの単語発音してくれない? アクセントいっつもどっちに付くか迷うんだよね」
「あぁ、これはーー」
夏休みの人がいない静かな学園。
それなのに、生徒会室は今日もわいわいと賑やかな会話が繰り広げられている。
あの宿題会の開催決定から、毎日こうやって集まっては課題をする日々だ。
課題なんざ今まで1人でパッと終わらせてきた。
正直、誰かと勉強なんてした事がねぇ。
だが、まぁこういうのも悪くねぇかと思っている自分がいる。
「………ん、丸雛、そこ違げぇぞ」
「ぇ」
「ここ。この問題はこの公式使った方が楽だ」
サラサラと使うべき公式を丸雛のノートに書いてやった。
「これに当てはめてみろ」
「は、はぃ!」
俺の書いた文字を見ながら、丸雛はゆっくりと考えて解いていっている。
(まさか、この俺が誰かに勉強を教えるとはな……)
副会長たちの時も自分自身に驚いたが、俺は誰かを育てる事をどうも楽しいと感じるようだ。
俺がもたらした変化でどれだけ変わるのか・育ってくれるのかを見るのが、とても楽しい。
現に、生徒会は3人は俺の予想を超える程の成長を見せた。
会計は丁寧に業務をする事が習慣となり、今となってはミスはほぼ無い。
書記は業務をするスピードが格段と上がってきている。
副会長も、集中力がだんだんとついてきているようで。
(ククッ、いいな)
夏休みが終わって次の学期に入ったら、今度はどういう指示を出してもっと育ててやろうか。
「か、会長っ、これで合ってますか……?」
「ん…… あぁ、合ってるな」
ぱぁぁっと丸雛の顔が嬉しそうにほころんだ。
こいつらとこう長く同じ時間を共有すると、だんだんとそれぞれの人格が見えてきた。
・丸雛は素直だがややミスが多い人間のようだ(こういうのを天然って言うのか?)。そこさえ注意すればいい。
・矢野元はとても真面目な奴だ、頭もキレる。そして、何となくだが丸雛を特別大切にしていると思う。そんな雰囲気が出ている。
・星野は、全体的に落ち着きがなく声が大きいがとても誠実。嘘がつけないタイプだろうな。
・佐古は……根はいい奴だってことは理解した。言葉遣いは荒いし赤髪だし見た目は話にならないが、実はこうみえてしっかりと筋が通ってないと嫌みたいだ。
こいつがハルの同室者だと知った時はすぐに替えてもらうよう寮監の処へ行くはずだったが、ハルがとても気に入っているのでそれは断念した……
だが、今はそれで良かったと思っている。
(ま、こいつには引き続きハルの番犬になってもらうか)
俺とハルは学年も違うから生徒会室以外で会うことがあまり無い。
だから、俺がいないうちはこいつに任せても良さそうだな。
この俺にも牙を向いてきたんだ。使えるだろう。
変な虫がつかないよう、見張っててもらうとするか。
しっかし〝佐古〟か……
聞いたことねぇ名字だな、一般の出身か?
(まぁ、また分かる時が来るだろ)
こいつらの事は大概分かってきた。
だが、今の俺にはこいつら以外に問題がある……
ーーハルの事だ。
(この前実家に帰ってから、妙に様子がおかしい気がする)
例えば抱きしめる時。
前は顔を赤く染めてワタワタしていた。
今も顔は赤いままだが、体を少し固くしているように思う。
キスをするタイミングも、だんだんと隙が無くなってきた。
それに、微かだが元気が無いような気がする。
(一体何があったんだ……?)
今も、俺から1番遠くの席に座って佐古と勉強している。
何なんだ…一体……
俺が何かしたか?
だが、思い当たる節が無い。
ハルが少しでも前のように元気になればと思って、あいつの案に乗って内側講習会とか言う名のお茶会も開いた。
今も、こうしてこいつらの勉強に付き合ってやってる。
俺がこういうことをするのは、全てハルのためだ
あいつに少しでも元気が戻るなら、それでいい。
だから、正直丸雛たちは俺にとってはどうでもいい存在だ。
(どうしたんだよ)
多分普通だったら気づかない変化。
現に、丸雛たちは全く気づいていない。
(何があったか、話してくれねぇのか?)
また、何か内側に隠してんのか?
また、1人で抱え込んでんのか?
ポソッ
「ったく……」
まぁ、夏休み終わるまでまだ時間はある。
ハルも家には帰らないようだし、俺もそれに合わせて今年は実家に帰らない。
(こいつらが全員実家帰ったら、聞き出すか)
ーー待ってろよ、ハル。
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