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sideアキ: レイヤとの距離感
(みんなを誘って、本当に良かった……)
屋敷に帰ってハルと話してから、どうもレイヤとの距離感が掴みきれない。
俺はハルの学園生活の為1日も無駄にはできないから、夏休みは当然屋敷に帰らず全て寮で過ごす。
みんなには「屋敷にはこれまでずっと居たし、帰ってもつまらないから自分から残りたいって言った」と説明してる。
そんな俺に、何とレイヤも「俺も帰らない」と言い始めて。
(いや、目的の為にはそれはラッキーなんだけど……)
でも…何というか……凄い気まずい………
隙があればキスしてくるし、抱きしめてくる。
いろいろ言って回避できる分は回避してるけど、流石に限界が来てて……
そんな時丁度レイヤがポツリと呟いた、「内側が知りたい」という言葉。
今回それに思いっっっきり乗っかった。
(まぁ、それがいい感じで転がって結局宿題会にまで発展したんだけど)
今は、凄く有り難い。
このままみんなでわいわいしていたい。
レイヤと2人きりになりたくない。
でも……ハルの為には極力仲良くしないといけない。
けどーー
「……? ハル、ペン止まってんぞ。わかんねぇのか?」
「ぁっ、うぅんっ!ちょ、ちょっと疲れたのかも……」
「この辺で少し休憩を取りましょうか。キッチンお借りしますね」
「手伝います」「おれも!」
「有難うございます。矢野元君、丸雛君」
直ぐに先輩が動き出し、パタパタとイロハたちを連れて席を立って行った。
(はぁぁぁ…気を遣わせちゃったなぁ……)
俺が疲れたって言ったからだよな、申し訳ない……
「ハル」
「っ、」
佐古じゃない方の隣から声が聞こえてビックリして見ると、いつの間にかレイヤが座っていた。
サワリ…と前髪を掻き上げられる。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です会長っ」
バッと思わずその手から逃げた。
「…お前……最近どうしたんだ?」
「え?」
「……はぁぁ…まぁ、いい」
ポンポンと、さっき払いのけたのにもう一度優しく頭を撫でてくれて。
「あんま抱え込みすぎんなよ」
そのまま元の席に戻って行った。
「ーーっ」
(あぁ…もう)
どうして、分かるの?
キュゥゥっと締め付けられる胸が、痛い。
こっちは必死なのに、なんだよあいつ。
〝俺〟に気づいてない筈なのに、ズケズケと俺の心の中に入ってきやがって……
やめてくれよ、もう。
(………痛い)
嘘、痛くない、大丈夫。
「みんなー、お茶持ってくから机片付けてー!!」
「っ、はぁーぃ!」
イロハたちが帰ってきてホッと息を吐いた俺をレイヤが見ていたなんて、知らない。
「ねぇねぇ、今年の夏祭りっていつだっけ?」
「今年は……確か8月最後の土曜日だったな」
「そっかぁ…楽しみだねぇ!今年は花火ちゃんと見れるといいなぁ」
「そうだな」
「……〝花火〟………?」
お茶とお菓子を食べながらそれぞれに話をしている中、イロハたちを見る(矢野元のお茶と丸雛のお菓子で休憩とか贅沢すぎるだろ、寧ろ宿題会よりこっちがメインって感じがする……)
「ん、うんうんそうだよハルっ!毎年ね、おれたちの地区は夏祭りがあるんだー!」
「家が隣同士だから、毎年一緒に行ってるんだ」
「わぁーそうなんだ、いいねぇ」
「去年はちょっと雨がぱらついて、雲とかもあって花火あんまり見えなくて。だから、今年はちゃんと見れるといいなぁーって!」
「そっかぁ…うんうん、今年は晴れるといいねっ!」
「うんっ!
ぁっ、ねー良かったらハルも一緒に行かない!?」
「あー…うーん、それは難しいかなぁ……」
「そうなのか?」
「うん。実は僕、
ーー学園から出る事、許されてないんだよねぇ」
「……ぇ?」
ハルは学園から出る事を両親に許されていない。
小鳥遊から学園へも、そう指示が回っている筈だ。
だから、2週間に1度の検査の為の帰宅で車が迎えに来る時のみ外へ出られる。
まぁ実質、屋敷と学園の往復だ。
それは決して〝外〟とは呼べない……
「ほらっ、僕にとっては学園が外みたいなものだし、多分両親が凄く心配しちゃってて……それでなんだよねぇ」
えへへ…と申し訳ないように笑うと、クシャッとイロハとカズマの顔が歪んでしまった。
(ぁ……)
「そ、かぁ……じゃぁ、ハルは夏祭り行った事ないの?」
「ぅ、うん、でも何かりんご飴?食べるんだよねっ!りんごが丸ごと飴になってるんだっけ。あれすっごく不思議だなぁ」
「花火も、見た事ないのか……?」
「テレビではあるよっ!凄くキラキラしてて綺麗だった! 空に火であんなの描けるなんて、考えた人凄いよねぇ!」
何とか取り繕おうといろいろ言うけど、申し訳なさそうな2人の表情は変わることがなく結局全部失敗に終わってしまう。
(どうしよう…そんな顔しないで欲しいのに……)
「ぁ、えぇっと……別に僕夏祭り意外にも行った事ない場所いっぱいあるから、そんな気にしないで、ねっ?」
ほらっ、例えば遊園地とか水族館とか、海に山に、ショッピングモールに映画館に…それからーー
「ーーっ、ハルっ」
「わっ」
ぎゅぅぅっといきなりイロハに抱きつかれた。
「おれっ、いっぱい写真撮ってくるから!」
「写真……?」
「うんっ、夏祭りも花火も…それ以外のとこにも今年はいっぱい行って、ハルにアルバム作って帰ってくるね!」
「イロハ……ふふふっ、うん、有り難う。楽しみに待ってる」
よしよしとイロハの頭を撫でてあげる。
「俺も、手伝うから」
「うんっ、カズマも有り難う」
「ハ、ハル様っ、僕もアルバム作って来ます!」
「えっ、タイラ? 有り難うー!」
いきなりタイラが話に入ってきて驚いて周りを見ると
いつの間にかみんなが俺たちの会話を聞いてたみたいで。
(ぁ、やばっ)
これ以上、みんなに変な気を遣わせなくない。
「イ、イロハお茶冷めちゃうよっ、お菓子も凄い美味しそう!ほらっ、食べよー?」
「……クスッ、新しいお茶を淹れ直しましょうか。やはり矢野元と丸雛のものはどれも美味しいですね。良かったら、今回お持ちいただいたお菓子などを解説してくださいませんか?」
「ぁ、はいっ。えぇっと…このお菓子はーー」
パッとイロハが離れていって、丸雛の顔になってひとつひとつお菓子を説明しはじめた。
(月森先輩…流石です……)
ナイスフォローすぎて本当神様か何かかな? 実は心の中読めるんじゃないのか?
そのまま、わいわい話しながら休憩が終わってまた宿題に取り掛かったーー
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