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(この私が、面白い?) 何を根拠にそんなこと言ってるんだ、こいつは。 目の前に座る人物は、クスクス笑って私を見た。 「君さ、ポーカーフェイスで隠し通してるつもりだろうけど全部丸見えだよ?」 「っ、な」 「クククッ。いっつもいろんな奴に囲まれてる時の君の顔、本当最高なんだよね……っ、ふふ」 (な、なんだこいつは!) 話し始めたかと思えば、私に対する悪口ばかり。 私にこんなことを言う奴は正直初めてだ。 誰だこいつ。 「俺はね、龍ヶ崎マサト。建築学部の4年生だよ」 (〝龍ヶ崎〟) あぁ、あの家具の会社か。 家具業界の日本のシェア率で言うと、現在圧倒的トップを誇るのは山之口(やまのくち)家具だ。 龍ヶ崎は、せいぜい7位か8位くらいの会社。 それに、龍ヶ崎の直系の息子は確か違う名前だった筈。 「ふふふ、俺のこと知らないでしょう? ーーだって俺、龍ヶ崎の〝分家〟の出だから」 (あぁ、成る程。分家) 本家の者でもないのか。 それでは、経営とは大分程遠い位置にいる者なのだな。 (私とは全く関係のない者、か……) どうりで知らないわけだ。 「私は月森シズマ。経済学部の2年生です」 「クククッ、知っているよ。後輩くん」 楽しそうに笑うな、本当。 一体何が面白いんだか…… 「ねぇ、シズマ。君はまだ主人は見つけきれてないの?」 このような端くれ者でも、月森の事はちゃんと知っているらしい。 「……えぇ、そうですね」 「クスッ、それならさ、 ーー俺にしときなよ」 「…………は?」 いつの間にか、龍ヶ崎は身を乗り出して私のすぐそばに来ていた。 私より頭ひとつ分程低い身長に、ジィッと下から覗き込まれる。 「俺はね、欲しいものは必ず手に入れるんだ。何を利用してでも、ね」 「……貴方もまた、私が欲しい、と」 「ふふふ、うん。 ーー欲しいね」 ただただ真っ黒い、何を考えているかわからない目で見られた。 「俺はね、シズマ。 〝龍ヶ崎〟を変える男だ」 (な、にを言ってるんだ?) 「ーー龍ヶ崎は、家具の世界を変えるよ」 強い、強い瞳だった。 意志の強い色をした、眩しいほどに真っ直ぐで、貪欲な そんな、独特の瞳。 (っ、目が…そらせない……) この私が? 今までこんな事は一度もなかった。 この端くれ者は、一体何者だ………? 「……っ、ぷはっ、そう固まらなくてもいいよシズマ」 クククッと可笑しそうに笑って、龍ヶ崎は離れていく。 「俺の卒業までまだ約1年あるからね。ゆっくり落としにかかろうか」 ニヤリと何を考えているのかわからない顔で、楽しそうに笑われた。 ーーこれが、私、月森シズマと龍ヶ崎マサトの始まり。

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