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sideアキ: 噴水にて 1
「こっちですよレイヤっ」
「あぁ」
暑さが続く真夏の日の中、2人でグラウンド近くの森の中を歩く。
「ずっとピアノばかりだと飽きるだろう」って言われて、「じゃぁ、前言ってた噴水まで散歩しませんか?」と誘った。
(うーん……俺としては全く飽きないんだけどなぁ)
寧ろ、教えてもらえてすっごく楽しい。
でも、そうやってハルのことを気遣って息抜きを提案してくれるレイヤに胸がきゅぅぅっとなる。
ほんっと、優しくなったよなぁ。
会長サマ時代からは考えられない……まぁ、良いことだけど。
最近本当、みんなみたいにハルの事を気にかけてくれるようになった。
これが一瞬の気の迷いとかじゃなくて、ずっと続いてくれれば良いんだけど……
(引き続き、監視だな)
「着きました、ここです!」
学園に着いてから初めて見つけた、あの森の奥の場所。
相変わらず木漏れ日が綺麗で、水がチョロチョロと少しだけ出ている黄ばんだ噴水に、蔦があちこちに絡んでいて。
なんだかとても安心する処。
(最近忙しくてなかなか来れてなかった……)
時々散歩がてらイロハたちと歩いてたのに、体育大会に決算にテストに、いろいろあって暫く来てなかった。
「へぇ、こんな所に噴水なんてあったのか」
「ふふふ、気づかなかったでしょ。学園の資料には10個と書かれてありましたが、本当は11個なんですよ」
興味深そうに近づいて噴水を観察しているレイヤに、楽しそうに笑いかける。
「よくこんな場所見つけたな。どうやったんだ?」
「初めて学園に着いてから、暇で暇で探検してたんです。そしたら偶然見つけて……」
「こんな森の奥を…探検……だと………? 」
(あ、)
しまった、この流れは……
「ハル、勿論誰かと一緒にだよなぁ? 丸雛と矢野元か?それとも佐古か? まさか1人でとかは無いよなぁ」
レイヤが噴水の淵に座って、ニコリと訊いてくる。
「ぇ、えっと……その…あの時はまだ入学式前で友だちもいなかったし…ぇと……こ、ここでイロハたちと初めて出会えたんですっ!だから良かったなぁ…なんて……」
「はぁぁ……良かったなぁじゃねぇよ、ったく……」
「うぅ…ご、ごめんなさい……」
「その様子じゃ丸雛達にも言われてんだろ。まぁ俺からも言っとくが、こんな森の奥まで1人で行くな。行きたいなら誰か誘って行け。
丸雛達でもいいし、俺と一緒の時は俺でもいいから」
「ぇ……」
(レイヤも、付き合ってくれるの……?)
「こういう場所は別に嫌いじゃねぇ。 寧ろ落ち着く」
サワサワと吹く風に気持ちよさそうに髪を搔き上げる姿は本当絵になりそうに綺麗で、かっこよくて。
つい、ぼーっと見てしまって……
「おい」
「っ、は、はぃ」
「いつまでそこ突っ立ってんだ。ほら、こっち来い」
ポンポンと隣を指示されて、素直にそこへ座った。
「いい風が吹くな、ここは」
「そうですねっ。夏は特にいいですよね」
「そうだな……」
暫く、お互い無言でゆっくりと流れる時間を感じた。
「…………なぁ」
「? 何ですか」
そしてそれは、ポツリと静かに訊かれた。
「ーーお前、最近なんか変じゃねぇか?」
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