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〝わたし〟 (イロハ今、自分の事〝わたし〟って言った…よね……?) 月森先輩も自分の事を〝私〟って言うけど でも、それはイロハのそれとは全然違う種類で。 (イロハって、〝おれ〟って言ってたよな) もしかして聞き間違いか?と思って佐古を見る。と佐古も俺を見てて、多分同じ事を考えてる…… 「ーーハル、佐古」 「カズマ」 「申し訳ないが、その疑問はイロハには投げかけないでくれないか?」 「え?」 カズマが、真剣な表情で俺たちを見ていた。 「どうして……」 「理由は、言えない………まだ」 「まだ?」 「あぁ」 (どうしたんだろう、一体) クラスのみんなはイロハからのお土産にわいわい盛り上がってるから、幸い俺たちの会話は聞かれてない。 それでも、カズマは内緒話をするようにズイッと顔を寄せてきて、俺も佐古も思わずカズマの方へ顔を寄せた。 「2人には悪いが、これは丸雛の問題なんだ。だから、イロハが乗り越えなければいけない」 「丸雛の、こと……」 「あぁ。 これまでイロハの一人称には違和感を感じなかったか?」 (違和感………) イロハは、出会った頃からずっと自分の事を〝おれ〟と言ってる。 それは漢字の〝俺〟とは違って、もっと可愛らしくたどたどしい発音。 そんな一人称は、背が小さくて髪の毛がくるくるで、目が大きくて元気なイロハには何の違和感も感じなかった…けど…… (言われてみれば、違和感……なのか?) どうして〝俺〟としっかり発音しないんだろう? 考え方次第だが、たどたどしい発音はまるで無理やり言っているかのよう。 ってか、イロハなら〝おれ〟より〝ぼく〟の方が似合うと思う。 どうして〝ぼく〟よりも男っぽい〝おれ〟という言葉で、自分を呼んでいるんだろう? 「……その一人称に、何か秘密があんのか?」 「そうだ」 「これまでずっと〝おれ〟だったのに、どうしていきなり……?」 「家から帰ってきたばかりだからな、つい出てしまうんだろう。イロハの一人称がいつもと違ってても、どうか見逃していつも通りに接して欲しい。 ーー頼む」 スッと、カズマが綺麗に頭を下げた。 「……っ、カズマ顔上げて。大丈夫だから」 よしよしと下がってる頭を撫でてあげる。 「佐古くんも、大丈夫だよね」 「あぁ。別に、問題ねぇ」 「つか、んなもんいちいち気にしてたら生きていけるかよ」とクワァッと伸びをしながら佐古が答える。 「ーーっ、2人とも、有難う」 「ふふっ、お礼言われる事じゃないよ」 ホッと息を吐くカズマに、優しく微笑む。 「全てが片付いたら、多分イロハから話があると思う。 その時は、どうか驚かずに聞いてやって欲しい」 「うん、わかった。 じゃぁ、それまで待ってるね」 「あぁ、頼む」 カズマは、こうやってずっとイロハの事をフォローをして支えてきたんだろうな。 イロハを守ろうとしているカズマの表情は、本当に凛々しくて。 (イロハ、頑張ってね) イロハがどんな問題を抱えているのか知らないけれど 丸雛がどんな問題を抱えているのか、分からないけど でも、いい方向に解決する事を願ってるよ。 (そして、話してくれるの待ってるから) まぁ、その時は多分話を聞くのは俺じゃなくてハルだと思うけど でも、ハルもきっと優しく微笑みながら聞いてくれると思うから だから、安心してね。 ーー待ってるよ、イロハ。 その後、いつも通りに授業が始まって 教室でタイミングを狙ってたのか、クラスのみんなから1人づつお土産を貰い 月森先輩とタイラからも貰い、更に「親衛隊の皆んなからです」とサンタクロースが持ってる絵に描いたような大きな袋を3つも貰って 寮で櫻さんと梅谷先生から貰い 部屋を訪ねてきたイロハから大量のご当地グッズを貰い(行ったところひとつひとつでしっかりお土産を買って来たのだそうな) 俺の部屋は、大量のお土産で埋め尽くされた。 ポソッ 「これ、どうすんの?」 え、いくらなんでも貰いすぎじゃね? ちょっと待って、やばすぎだろこれは。 「……でも、まぁ」 (嬉しい、な………) 仲のいいイロハたちは取り敢えず置いといて みんな、夏休み中全然ハルと会えてなかったのにハルの事を思って買ってきてくれたのだろうか。 まるで、みんなの心の中にハルが住んでいるみたいだ。 その事実が嬉しくて、えへへとつい笑ってしまう。 (取り敢えず、片付けよっかな) 種類分けして、食べ物とかは冷蔵庫に入れとかないと。 「おしっ!」

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